カジノIR法

横浜に「カジノ」を誘致してはいけない5つの理由

カジノを含む日本型IR(特定複合観光施設)開業への動きが各自治体で活発化しつつある。横浜市は林文子市長が2019年8月22日、関東地方で初めてIR誘致に向けた取り組みを始めると発表。地元では港湾関係者が山下埠頭でのIR開業に異を唱え、市民の反対運動が激しさを増し、カジノの是非をめぐる議論が巻き起こっている。果たして横浜にカジノを作ってもいいのだろうか。

横浜市が白紙から一転、名乗りを上げる

 カジノでは、ルーレット、カード、スロットマシン、バカラ、バックギャモンなどが行われるが、パチンコはもちろん宝くじや競馬、競輪といった公営ギャンブルもギャンブルだ。日本にはこれまでカジノはなく、違法の闇賭博で行われている程度だった。つまり、従来は違法だったカジノを合法賭博にするのが日本型IRの目的となる。

 IRは、いわゆるアベノミクスの三本目の矢としてミクロ的な経済振興策のために法案化され、国会での議論を経て策定された。また、IR誘致で梃子入れし、東京オリパラ後の経済失速を防ぐという目的もありそうだ。

 IR関連法では、2016年12月にIR推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)が、2018年7月にIR実施法(特定複合観光施設区域整備法)がそれぞれ成立した。2019年3月には、IR整備にかかわる政令(特定複合観光施設区域整備法施行令)が出され、国内3カ所を上限とし、カジノ(ゲーミング区域)はIR施設全体床面積の3%以下に定めるとした。

 横浜市が名乗りを上げるまで、大阪市(大阪府)、和歌山市(和歌山県)、佐世保市(長崎県)で、首長(府県も)によるIR誘致の正式決定が発表されていた。その他、苫小牧市(北海道)、岩沼市(宮城県)、千葉市、東京都、常滑市(愛知県)、北九州市などが誘致に前向きと言われている。

 横浜市の場合、2017年4月に行われた前回の市長選に林市長がIR誘致には慎重な姿勢をみせて「白紙」として立候補し、その姿勢も少なからず影響して再選を果たした。以後、一貫して白紙と繰り返してきた。

 だが、しばらくして横浜市は、IR誘致に向けて策動を始める。2018年に出した横浜市の中期4カ年計画にもIR誘致の可能性が言及された。

 そうした市の姿勢に対し、市民の間には不信感が募る。中期計画に関するパブリックコメントの約2割がIRに関する内容で、その94%がカジノを含むIRや市民の声を無視したIR計画推進に否定的なものになった。

 横浜市はその後、IR誘致の情報収集や業者選定と委託などを行い始める。5月にはIR検討調査報告書を公表した。林市長は7月上旬、政府のIR整備の政令発表と同市の報告書の結果を受けた形で、もし仮に横浜にIRを誘致した場合、カジノを含むのは当然のこととし、誘致に関する住民投票で賛否を問うことはないと明言する。

 横浜市民が抱く懸念の声を無視してきた市と市長の姿勢が強い批判にさらされているが、果たして横浜にカジノを作っていいのだろうか。もちろん、地域振興や税収増(国と自治体にカジノ行為粗収益の15%ずつ)にも期待でき、年間1兆円ともいわれる経済波及効果はあるのかもしれない。

カジノ誘致が地域社会に及ぼす悪影響

 しかし、カジノが横浜にできた場合の影響について、主に地元へのネガティブな側面からの資料は少ない。その懸念事項は以下の通りだ。

・ギャンブル依存症の人が増加

・マネーロンダリングの危険性

・国内外の反社会勢力が関与

・地域の治安が悪化

・青少年への悪影響

 まず、ギャンブル依存症だ。これは病的ギャンブリング(Pathological Gambling)とも呼ばれ、米国の精神疾患診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder、DSM)にあるようにギャンブル依存症は「Addiction」ではなく「Disorder」であり、依存よりも精神障害の一種に分類されている。

 その診断は、ギャンブル行動が躁病エピソードで説明できない場合になされ、前述したDSMのDSM-5や米国のサウスオークス財団が開発したスクリーニングテスト、SOGS(The South Oaks Gambling Screen)といったツールがギャンブル依存症の診断に使われる。

 日本のギャンブル依存症患者は、調査によって推定される数や割合に幅があり、2013年に発表された調査では日本人のギャンブル依存症患者が536万人もいるとされ、大きな話題になった。だが、この数字は、一生涯の記憶として病的なギャンブルが思い当たるかどうかを聞いたもので、より現実的な過去12ヶ月間の結果ではなかったことで一部から批判された。

 日本型IRが問題になり始めた頃、国内でギャンブル依存症に関する調査研究が行われるようになったが、前述したように統一的なアンケートを採っていなかったりデータを追試できなかったり、あるいはパチンコ依存のみの調査だったりと、どれも帯に短したすきに長しで信憑性に欠ける。日本型IRが政治的な政策論争に利用されたことも影響したのかもしれない。

 改めて2017年度に行われた調査によれば、日本で過去12ヶ月以内にギャンブル依存症が疑われる人の割合は0.8%(0.5~1.1%の幅、男性1.5%、女性0.1%)であり、一生涯の場合は3.6%(3.1~4.2%の幅、男性6.7%、女性0.6%)となっている(※2)。全国4685人(有効回答)を対象にしたSOGSを使った対面式のアンケート調査だった(追試あり)。

 この調査結果によれば、最も多く金を使われたギャンブルはパチンコとパチスロで、ギャンブル依存症が疑われる人の1年以内の掛け金は月平均約5.8万円だったという。また、ギャンブル依存症の割合を世界各国の調査と比べてみると、12ヶ月以内では米国1.9%、英国0.8%、スウェーデン0.6%、スイス0.5%というものがある。一生涯では、オーストラリアの男性2.4%、女性1.7%、オランダ1.9%、フランス1.2%、スイス1.1%、カナダ0.9%などがある。

 日本人は一生涯の記憶では諸外国よりもギャンブル依存症が疑われる人の割合が高いが、過去12ヶ月でみればそう高くもないということになりそうだ。12ヶ月より以前に病的ギャンブリングをしたことがあるが、負けが込んだり家族にバレるなどして足を洗った人が多いのだろう。

 病的ギャンブリングも依存症の一種なのだから、過去に一度でも思い当たる節があれば、脳の報酬系に依存メカニズムができてしまっている危険性がある。何かの拍子に以前の記憶がよみがえり、病的ギャンブリング=ギャンブル依存症に陥ってしまうかもしれない。

 また、ある研究によれば、ギャンブル依存症になりやすい特別な条件というのはない(※4)。逆にいえば、誰でも病的ギャンブリングに陥ってしまうということだ。

ギャンブル相談件数の多い横浜市

 政府は依存症対策として日本人の入場に制限をかけるとしているが、単に回数や入場料の徴収では予防することは難しいだろう。近くにできたカジノに横浜市民が足を運べば、以前の記憶が再燃してギャンブル依存症になる危険性も高いからだ。

 ちなみに、横浜市の福祉保健センターに対するギャンブルについての相談件数は2014年度が251件、2015年度が246件だった(※5)。同じIR誘致に積極的な千葉市の場合、2017年度のギャンブル問題の電話相談29件と面談31件の合計は60件となっている。

 施設の数や支援体制の違いなどで単純に比較できないが、横浜市のほうが圧倒的に多い。首都圏の政令指定都市の比較で参考になりそうだ。

 カジノを使ったマネーロンダリングは、多少の損を承知の上でなら、スネに傷を持つ反社会的組織や脱税したい人間にとって一般的な方法だ。塩漬けになって使えない金よりカジノ側に駄賃を払ってでも洗浄して自由に使えるようになったほうがいいと考えれば、客引きのジャンケット(Junket)を含む代理業者(代打ち)にまかせることで現実味を帯びるからだ。

 この方法は世界中で横行しているので、ジャンケットに対して免許制度をとっている米国やマカオ、シンガポールのように強い規制が必要となる。

 だが、優良顧客を引っ張ってくるジャンケットは、カジノ側にとっても利用価値のある存在だ。そして優良顧客の中にはマネーロンダリングをしたい人や組織も含まれ、カジノ側としては規制をかいくぐってでもそうした客を呼び込みたい。

 カジノ運営に慣れない間、問題が顕在化するまで日本でマネーロンダリングがやりたい放題になる危険性もあるということだ。そうなれば、横浜のカジノがマネーロンダリングの温床になり、素性の知れない代打ち業者が横浜に入ってきて様々な問題を引き起こすだろう。

 治安と青少年への悪影響はどうだろう。最近の日本の受刑者を対象にした調査によれば、犯罪歴のある人は一般人より約4倍もギャンブル依存症になりやすいことがわかっている(※7)。そして、ギャンブル依存症は、万引き、窃盗、強盗といった経済的な損得勘定が理由の犯罪と関連が深かったという。

 横浜にIR施設ができれば、中区の山下地区を再開発して作られることになる。山下公園の氷川丸の横で中華街や巨大クルーズ客船が接岸する大桟橋、元町のショッピング街、関内あたりの歓楽街、さらに日本三大ドヤ街の1つである寿町にも近い。

 パチンコのいわゆる「三店方式」も最初は反社会的勢力の資金源になるよりは、警察行政がコントロールできるようにする消極的な対策として作られた。ギャンブル規制と反社会的勢力資金源の関係は、タバコ規制にも似て悩ましい。利用率が高い状態で無闇に規制すれば、闇賭博や闇タバコが横行し、反社会的勢力の資金源になりかねないからだ。

治安が悪化し、未成年者への悪影響も大きい

 西区と中区で救急搬送された患者のうち約半数が区外在住者だ。他区の割合が2~3割程度なのに比べると倍ほどの違いがあり、西区と中区には大きな歓楽街やオフィス街、ターミナル駅があるのでインバウンドもあって流入する外国人も多くなっている。国内外からの反社会勢力がカジノ利権を目当てに、人の出入りの多い港湾都市・横浜に集まってくる危険性もありそうだ。

 横浜市消防局の資料によれば、加害(故意に他人によって傷害等を加えられた事故)で救急搬送された割合は、IR予定地の中区がダントツで南区、西区の順に高い。これらの地区はIRの再開発予定地に近い。

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救急搬送の加害の割合(加害/全搬送者)を区ごとにみる。中区、南区、西区、神奈川区といった沿岸部に多いことがわかる。

 18 才未満の少年がスナック、パチンコ店、深夜飲食店、深夜興行などに出入りしたり、わいせつ図書を所持することを不健全娯楽という。これに該当して不良行為少年として補導された割合は全国的に増えているが、横浜市ではそれが顕著だ(※9)。カジノができれば、青少年への悪影響は計り知れないだろう。

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非行までいかない補導対象の不良行為少年の中で、横浜市で未成年者がスナックやパチンコ店などで遊んでいて補導された不健全娯楽の割合の推移。全国的に飲酒や喫煙といった他の行為が減っているため、相対的に不健全娯楽の割合が増えている。Via:横浜市、「横浜市統計書:第17章 司法及び治安:不良行為少年の行為別補導状況」、2017

 以上、横浜にカジノを作ってはいけない理由をまとめる。

 横浜市の行政に対してギャンブル関係の相談をする人は多く、ギャンブル依存症になる人が増える危険性がある。マネーロンダリングの危険性も高く、そもそも地域的に治安が悪いため、反社会的な勢力が国内外から集まってくるだろう。不健全娯楽で補導される割合が増えている未成年者に対する悪影響も無視できない。

 みなとみらい地区を開発してきたこともあり、同地区にはランドマークという名の高層ビルもあるし、ホテルや会議場、遊園地などの娯楽施設も整っている。さらに、ほかの観光地にはない中華街や元町・山手地区などもある。

 こうした地区とカニバる危険性もあり、そもそもIRの経済波及効果は不確実だ。カジノで儲けているような海外資本が、地域や住民のことを最優先で考えるはずもない。博打で儲けた金に横浜市の未来を安易に託すより、知恵と工夫で自らの未来を切り拓いていったほうがいい。リスクばかりのカジノは横浜に必要ないのだ。

※1:SOGSでは「今までにどんなギャンブルを、どのぐらいやっていましたか」「1日にかけた金額の最高額はどのくらいですか」といった選択項目のない質問と「ギャンブルで負けたとき、負けた分を取り戻すためにまた、ギャンブルをしたことがありますか」「実際はギャンブルで負けたのに、勝っていると吹聴したことがありますか」「ギャンブルをしていることを配偶者や子供、その他あなたにとって大事な人に知られないように、ギャンブルの券や宝くじ、賭博用の資金などを隠したことがありますか」といった選択項目やイエスノーで点数化されるものなど17項目(ないし12項目)の質問によって判定され、5以上がギャンブル依存症の疑いがあるとの判定

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