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【チーム力】リーダーは“手数”を増やし、人間の本性を理解せよ

アトラエ | NewsPicks Brand Design2019/9/23組織のエンゲージメントを左右する鍵はどこにあるのか。一橋大学の楠木建氏は「組織の良し悪しの実態は“チーム”にある」と語っており、鍵はチームが握っているとしている。

そこで、組織改善プラットフォーム「wevox」を活用して、エンゲージメントの高いチーム開発を実現させているAbemaTV開発本部・副本部長の矢内幸広氏と楠木建氏に、エンゲージを高めるチームアップの本質について聞いた。組織は設計された構造、チームは相互依存関係──楠木先生に伺います。なぜチームのエンゲージメントが組織のパフォーマンスを左右するのでしょうか?楠木 組織とチームは異なります。組織とは「設計された構造」のことで、事業部制なのか職能制なのか、どの権限をどの階層まで配分するのかなどを設計した結果、できあがった構造です。一方で、チームは「お互いの仕事の相互依存関係を認識できる範囲の集合体」のことを指します。一般に組織よりもチームは規模が小さく、含む・含まれるの関係にあるわけですが、それはこのような定義上の違いがあるからです。

同じ組織でもチームが違えば、お互いに今日どんな仕事をするのかはダイレクトに関係しませんが、同じチームの場合は「自分の仕事はこの人の仕事に影響する」といった具合に、相互依存の関係にあります。この相互作用が現場力になる。

かつては、組織の設計の優劣が競争優位性につながっていたので、効率的な組織を作った企業が強かった。しかし現在は、ベストプラクティスを分析すれば「合理的な組織」を設計することは難しくありません。極論すれば、非競争領域になりつつある。コモディティ化して、組織構造の設計だけでは競争優位性は生まれにくくなっています。しかし、チームは現場の相互作用による“グループダイナミクス”の領域なので、動き方もアウトプットも千差万別です。チームの良し悪しによって現場力は大きく異なり、それが組織のパフォーマンスに強い影響を与えている。チームのエンゲージメントが組織のパフォーマンスを左右すると言われるようになった背景には、こうした傾向があると思います。極論、仲が良くなくてもいい──矢内さんはAbemaTV開発本部の組織開発をリードされています。どのようなミッションを持っているか教えて下さい。矢内 AbemaTVは約600人の組織で、そのうち約100人が開発本部に属しています。僕はそこで組織開発を担っていますが、ミッションは「AbemaTVの事業を成功させる」こと。そのために組織を作っています。

楠木 いいですね。事業やサービスを成功させる手段として現場があるのに、「現場をいきいきとさせる」ことを目的に組織づくりをするケースはよく見ます。仲は良くても業績が悪いチームではどうしようもない。矢内極論、仲は良くなくてもいいと思っているんです。重要なのは全員が向かうべき目的を見失わずに協力して突き進むこと。そういう組織やチームを作りたいと思っています。楠木先生が仰るように、組織はマネジメント体制などを設計した構造で、チームはミッションベースで集まった集合体です。チームに属する個人同士の相互作用によって、最大限の成果を出すことも、期待する価値を生まないこともある。だからこそ、チームのエンゲージメントを高める必要があると思っています。wevoxは組織の状態を測る「体重計」──AbemaTVはエンゲージを高める組織改善プラットフォーム「wevox」を導入しています。その背景には、何かしら手を打たないといけない課題があったのでしょうか?矢内 開発本部が100人に達しそうなタイミングで、エンゲージメントを高めていかないとさらなる拡大は難しくなるだろうと思ったんです。何か課題があって導入したというよりは、個人が自立して事業をスケールさせていくための手段として導入しました。

全チームに毎月wevoxで「自分が困っているときに同僚は助けてくれるか」「成果や貢献に見合った評価がされているか」など複数の質問に回答してもらい、チームや組織の状態を把握。時系列で状態を追いながら、変化があればリーダーが集まって何をすべきかディスカッションし、行動を起こしています。wevoxの導入によって根付いたのは、1on1などのコミュニケーション文化と、自分たちが何のためにどこに向かっているのかをリーダーが理解して伝えること、そして個々の仕事の成果を細かくフィードバックする習慣です。楠木 wevoxの良いところは、「あれをしろ、これをするな」という指導的なツールではない点ですね。現場やチームは日々動いている“生き物”なので、いわゆる自己啓発本にあるような画一的な方法論は通用しない。wevoxの最大の価値は「体重計」のようなものであることだと思います。チームの現状を測れるツールであって、目的や用途が限定されている。

ダイエットのように、毎日体重計に乗ってグラフにしていくと変化に気づくように、チームの場合も、時系列でエンゲージメントが「下がってきた」「上がってきた」という状態がわかれば、「それはなぜだろう」と考えられます。矢内 まさに、僕らはwevox上でエンゲージメントを100点にするつもりは全然ないんです。ただ定量的に、毎月のチーム状態の変化のサインを見逃さないために活用しています。その意味では本当に体重計ですね。状況を把握できることで、リーダー同士でコミュニケーションを取るようになり、各チームが自発的に判断して動ける状況を作れたのが良かったです。スコアが下がっているチームに対する打ち手は、1on1などのコミュニケーションや、ミッションの共有などです。何も特別なことではありません。

楠木 組織規模が大きくなっていくと、こうした当たり前のことが「忙しい」を理由にできなくなるので、現状を把握して何が必要かを考える体重計のようなツールが必要になります。体重計で変化に気づいた後、どんなことを話して何をするのかは会社のカルチャーやリーダーの求心力に強く依存します。そしてそれもエンゲージメントに影響する。よくないのは「100点信者」になってしまうこと。点数にこだわると、スコアが低い言い訳を考えるようになりますし、開示もしなくなる。意味のない競争が生まれ、悪いチームはさらに悪い方へと増幅することになるかもしれません。リーダーの“手数”の多さがチーム力を高める──矢内さんはwevoxの結果からアクションを起こす際、判断基準は設けていますか?矢内 たとえば、あるチームは他のチームより全体的に10〜20点ほど低いのですが、それはこのチームにとっての通常なんですね。僕らはチームメンバーの性格などを理解していますし、時系列で追っているので数字自体に意味はありません。もちろん、突然半分以下の数字になったらまずいなと思いますが、忙しい時期であれば、ある程度点数が下がることは予測できます。だからチームごとに判断基準は異なります。──1月ごろから同僚や上司との関係を示すスコアが大きく上昇しています。何があったのでしょうか。

矢内 1月は、プロジェクト単位での小さなOKRを導入し、心理的安全をキーワードにした1on1を本格導入したタイミングでした。開発リーダー陣での合宿を開催して「目指す組織状態」を定義したり、「プロダクト未来会議」と称した経営層との会議を設定して、ミッションステートメントも再定義したりしました。さらに、カルチャー推進チームを作って、シャッフルランチやプロフェッショナル表彰など組織全体のカルチャーをつくってきた。それらが総合的に効果を発揮したのだと思います。

楠木 AbemaTV開発本部は、人間と体重計が良い関係で共存しているため、他の会社では「やらないといけないけれど、忙しかったり面倒くさかったりして、できなくなっていること」ができている。しかも、矢内さんの施策は「手数が多い」ですね。これはとても重要なポイントだと思います。手数の多さは、矢内さんがチーム開発に対して「凝っている」ことの証明でしょう。それをタスクとしてやるのではなく、自ら深く思考して行動するようになると、一つひとつの打ち手が「凝ってくる」んです。良いチームは「やらざるを得ない」「必達」といった言葉は使わず、「こうしたらどうなるだろうか」とみんなが凝り始める矢内 凝り始めるという意味では、新しく始めた「QPT会議」も当てはまると思います。QPTとは、Quick、Problem、Try! を合わせた造語。これは開発本部を10チームにわけて、それぞれに解決したい組織課題と解決案をセットで提案する取り組みです。各チームが「もっとこうしたい」という組織課題を提案してくるので、実施が決まれば主体的に責任を持って取り組んでくれます。まだ、導入したばかりですが、組織を良くするアイデアが全チームから出てきました。

優れたリーダーは人間の本性を理解している──エンゲージメントの高いチームをつくるために、リーダーに求められる要素は何でしょうか。矢内 向かうゴールと、それを実現させた時の世界をきちんとメンバーに話せることですね。細かい管理能力ではなく、メンバーの日々の仕事が目標に対してどんな効果を発揮できるかを説明でき、結果をきちんとフィードバックできることが必要だと思います。数字だけを見て判断するリーダーよりも、「自分たちはどこに向かっていて、そこにはどんな世界が待っているのか」を熱量高く語れるリーダーの方が、メンバーはワクワクしながら働けると思います。楠木優れたリーダーは「人間の本性」についての理解が深いんです。本性は個性や専門性を超えて、人間が共通して持っているものです。たとえば、「期待されたら頑張る」「向き合ったら応えようとする」という人間の本性は、どんなに多様性のある組織でもほとんど変わりません。自分が機嫌良く働いていると周りも機嫌良くなるというのも人間の本性のひとつですし、人は気にかけられていることがわかるとエンゲージメントが高まる生き物です。

矢内 そこでいうと「褒め便り」というのを始めたんです。wevoxには「この部分の改善がオススメです」と提案してくれる機能があって、「褒める」というキーワードを提案されました。そこであらためて「褒める」とは何かを考えたとき、大きな表彰で光を当てることも大事ですが、身近な人に日々の頑張りを認めてもらう「褒められたい人に褒められる」ことが何より嬉しいのではないかと気づいたのです。だから、毎月身近で頑張っていた人をwevoxに記載してもらい、1on1でリーダーがその人を褒めたり、書いてもらったコメントを差出人は匿名で「褒め便り」として全員に配信したりするようになりました。毎月約50件のコメントが上がってくるのですが、それらを詰め込んだ褒め便りを読んでいると、優しい空間にほっこりしますよ。

実際の「褒め便り」。コメントをまとめて月に1回、slackで配信している楠木 約100人の開発本部全体が相互依存性のある「チームの定義」に当てはまりつつ、立ち話で話しが済むほど小規模ではない。だからこそ効いてくる施策なのだと思います。しかも、wevoxで組織やチームを診断し、何かしらの変化に気づいてアクションを取ると状態が良くなっていくことを、矢内さんだけでなくみんなが体感知的に気づき始めていますよね。そうなるとチームは好循環サイクルに入るので、施策をやればやるほど良くなっていくと思いますよ。

組織やチームに何かしらのツールを入れると、多くの場合で「省力化」を期待するでしょう。AIがすべて解決するかのような、魔法の杖のようなイメージを持っている。だけど、組織やチームに向き合ってエンゲージメントを高めたいのに、省力化をしていたのでは、逆にチーム力を下げてしまいます。チーム力を高めようと思えば、リーダーのやることは増えます。個人のエンゲージメントとパフォーマンスの相関関係を探って楽をしようとしてもうまくいきませんし、チーム力を高めるための飛び道具もありません。大切なのは、矢内さんのようにwevoxを体重計として使いながら、変化に気づいて施策を考え、着実に実行し、継続していく力。それが企業の組織能力を生むと思っています。矢内 チームの状態を把握すると、打つべき手数がどんどん増えてくるんですよね。ツールを入れることで楽になるのではなく、むしろやるべきことが増えます。エンゲージメントの向上に“銀の弾丸”はありません。ひとつの課題が改善したら、チームは次のステージに行くので、次の新しい課題が出てきます。ただ、その一つひとつがAbemaTVの成功につながっていくと思っています。(文:田村朋美、編集:呉琢磨、写真:岡村大輔、デザイン:久喜洋介)

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