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【後編】「オカマがヒーロー化する社会」の不思議

2019/9/21『週刊朝日』誌上で連載中の人気エッセー「アイドルを性(さが)せ!」を単行本化した、『熱視線』(朝日新聞出版)を上梓した、女装家のミッツ・マングローブ氏。インタビュー後編では、ミッツ氏ならではの視点で今の日本社会を読み解く。歪められた「理想の結婚像」──アイドルといえば「夫婦をセットでアイドル視する」という風潮もありますよね。木下優樹菜さんとフジモンさんに対して「この夫婦最高すぎる」みたいな。よその夫婦にそこまで思い入れできるって、ある意味すごいことだと思うのですが、ミッツさんはどう感じますか?ミッツ それはおそらく、女性の社会進出と関係していると思うんですよ。いわゆる「内助の功」的な、3歩下がった奥さんではなくて、夫婦が同じ熱量、同じ分量で一緒に子育てしていますとか、同じくらい稼いでいますといった部分が共感を得ているんじゃないでしょうか。──そう聞くと、素敵なことのように思えます。とはいえ、今って結婚というものをすごく自由にしたつもりが、かえってステレオタイプに陥っているように感じますね。それこそ「3歩下がって」みたいなのはもう古い、もっと結婚って自由じゃん、みたいなところにいったはずなのに、逆に結婚の在り方が狭められてしまっている。いまどきの夫婦タレントを見ていると「全部、これかい!」って思いますからね。結局みんな、夫婦そろって洗剤のCMに出るわけでしょ? 理想の形がそこに固定されてしまっている。

──確かに、3歩下がって家のことは全部自分でやりたい女性もいるわけですよね。当然いるし、旦那には子育てに介入してほしくないという人もいるだろうし。なのに、なんとなく「イーブンじゃないと不幸」みたいな、新たな定義がまかり通っている気がします。日本は「洗剤CM」後進国洗剤のCMって面白くて、その国の「理想」が如実に表れるものなんです。というのも、洗剤は汚いものをきれいにする象徴でしょう? きれいになったもの=「理想」ですからね。だから、真っ白なシャツを、すごく晴れた日に、広いベランダや庭で奥さんが干しているのを、旦那さんも子供も一緒になってキャッキャと手伝っているというのが、この国が定義する「幸せ」なんです。それって、恐ろしくないですか?なぜ、黒いシャツを夜中に干す独り身の人もいるんだよということを、この国は一切出さないんだろうと思いますね。

(imagenavi/Getty Images)
──ミッツさんはロンドン暮らしが長かったのですよね。海外の洗剤のCMは違う感じなのですか?夜のコインランドリーは全然あるし、これ見よがしに白いシーツをバーンと干しているようなCMは見たことがないですね。そもそも、外には干さないから。みんな乾燥機で回してる。もちろん、サザエさん的な光景が、日本の幸せの原風景だというのはわかりますし、それは守っていいものだと思うんですよ。ただ、そこにすごくリベラルなものを、時代と共に込めていった結果、ごく一部の人にしか手が届かないような、すごく狭い理想形が出来上がっているように感じます。

マツコ・デラックスの「男社会力」マツコさんがレノアの消臭剤のCMに出たのは、すごく新しいなと思ったんだけど、それでもやっぱり「マツコさんの服を消臭する」という感じではないんですよね。結局はサラリーマンの臭い問題を、マツコさんが俯瞰して眺めているという構図になっている。マツコさん本人の暮らしに、もう一歩踏み込めていないんです。そういう意味では、洗剤のCMひとつ取っても、日本はまだまだ多様性という点で後れを取っているなと思いますね。──マツコ・デラックスさんの現在の人気ぶりが、彼女の「男社会力」に支えられているという指摘にも、頷かされるものがありました。やっぱり、サラリーマンを鼓舞できるオカマって、マツコさんだけなんですよ。普通は、オカマに「お前、頑張れよ」なんて言われたくないわけです。男にとっては、同性として、上か下かで言えば下に捉えたい存在ですよね。もしくはまったく異次元的な存在として捉えたい。そんな中で、マツコさんは、ウルトラマンとか、アントニオ猪木とか、イチローとかと同じ文脈で「男のヒーロー」になった、初めてのオカマなんじゃないでしょうか。

「男社会」を否定するのは危険──日本の男社会には、どうしても頑ななところがありますが、どうすれば変わると思いますか?何もしなくても、自然と変わりますよ。女性の選択肢が増えていますからね。選択するかしないかは別として。ただ、男社会そのものを否定してしまうと、社会も経済も疲弊してしまうと思う。なぜなら、男ってやれることが限られているので。要は、男ができることは女もできるのに、女ができることを男はできないんです。男ができることを全部取ってしまうと、やることがなくなって、ただの「飯食い人形」になっちゃう。だから、男には労働力として存在してもらうしかないんですね。そういう意味での男社会をあんまり否定しすぎちゃうと、世の中のバランスがおかしくなるし、日本人の気質にも合わないんじゃないかな。

北欧みたいに、一日4時間ぐらい働いてあとはサウナに行っている……みたいな生き方をしても国が回るところなら、それでもいいと思います。でも、日本人は、ああはなれないと思う。それで満足できる国民じゃないんですよ。──だからこそ、マツコさんみたいに男性を鼓舞する存在が求められているのかもしれませんね。もちろん、マツコさんの人間力もあるんでしょうけど、男から見て気持ち悪い対象であるはずのオカマが、ここまでちやほやされる世の中って、よくも悪くも、何かがいろいろ変わってきた結果なんでしょうね。

簡単に「自己肯定感」を得る方法──新宿2丁目に元気をもらいにいっているサラリーマンも多そうですね。そりゃあ、ちやほやしてもらえますからね。みんな客商売だから、タイプじゃない男が来ても「お兄さん、いい男ね」とは言うじゃないですか。男って「俺、今日モテちゃった」と思っただけで、次の日ちゃんと働ける。それぐらい単純な生き物なんですよ。だから、2丁目でちやほやされると「昨日、オカマにモテちゃってさ」みたいな感じで、次の日ちょっとニコニコしてる(笑)。──たったそれだけでも、自己肯定感を得ることができるのですね。自己肯定したいなら簡単な話で、その年の納税額を見ればいいんですよ。世のため、人のため、国のために自分は存在しているんだということを実感すれば、たぶん、自己肯定なんてすぐにできるから。自分のためだけに生きようとするから、いつまでたっても自己肯定できないんですよ。

新宿2丁目(写真:アフロ)──なるほど。だから「税金取られた」みたいに思うのは、よくないと思うのね。「血税」みたいな言い方も好きじゃない。──昨今、議論のかまびすしいNHKの受信料も「払っても構わない」派ですか?絶対払います。もちろん、「これには税金を使ってほしくないな」みたいなこともあるけれど、まずは国にお預けして、どう使ってもらうかは自分たちが選挙で選べばいいわけだから。なんにせよ「今年はこれだけ、社会のために貢献したんだ」と思えるだけで、モチベーションなんか、いくらだって保てるんじゃないかしら。*前後編終了。

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