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【投資の始め時】30代になったら、収入の16%で運用を始めよう

2019/9/23「老後2000万円」不足すると指摘したとして、大炎上した金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループの「高齢社会における資産形成・管理」報告書。これをきっかけに、若者世代の間で資産運用に対する関心が高まっている。個人型確定拠出年金(iDeCo=イデコ)や少額投資非課税制度(NISA=ニーサ、つみたてNISA)の口座開設に駆け込む人が急増しているのだ。SBI証券は今年6月、イデコの資料請求が前月比1.5倍に拡大。楽天証券もイデコとNISAの口座開設の申し込みが前月比2倍に拡大した。大きな資金を必要とする老後への備え。資産運用は早く始めた方がいい。だが一方で、「老後2000万円」というキーワードには誤解も多いと、ワーキング・グループの委員を務めたフィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史所長は指摘する。これから長い付き合いになる「お金」について、私たちは今、何を知っておくべきか。特集第一話では、老後に向けてまず知っておくべきことを、野尻所長に解説してもらう。

老後資金への「思い込み」「年金が2000万円不足する」というニュースが、世に出てから、老後の資金に対してにわかに注目が集まりました。私も金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ の委員として高齢社会における金融サービスの在り方を議論し、その結果として、本旨とは違った形で注目された「高齢社会における資産形成・管理」の報告書の作成に関与しました。ただ、どうも2000万円不足するという言葉だけが一人歩きしているように感じられます。ぜひあらためて、あの報告書を読んでいただきたい。

金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループの「高齢社会における資産形成・管理」報告書(写真:冨岡久美子)老後の生活費が「2000万円」不足するという数字はすべての人に当てはまるものではありません。多くの方が「思い込み」をしているであろう老後の資産形成について、その誤解を解きながら、老後の資金をどう考えればいいかを説明していきます。「投資しない」リスクまず、「投資はリスクが高い」と考える若い人も多いですが、そうでしょうか。「投資をするリスク」と「投資をしないリスク」について考えましょう。日本の人口は減少していくので、今の若い人たちが65歳を過ぎる頃には、自分を支えてくれる若い世代が大幅に少なくなっています。公的年金制度はしっかり守られていくでしょうが、それゆえに、若い世代の受け取る年金額は親世代よりも少なくなるのは明らかです。投資をしないリスクとは、そういった時代に、お金がない状態で老後を生きていくことになる可能性が極めて高くなることだと、私は思います。一方、投資をするリスクは、ボラティリティ(資産価格の変動)があることです。ボラティリティが大きくて大幅損をしたり、逆に大きく儲かることさえリスクといえます。では、それぞれのリスクを回避する方法を考えましょう。投資をしないリスクを回避する方法は何か。子どもをたくさん産む、親族の遺産をもらうなどによって、回避できるかもしれません。でも、それは他人頼みみたいなもので、運が左右するところもあり、システマチックな対策ではありません。一方、投資をするリスクは、自分でコントロールする術があります。長期・積み立て・分散投資ならば、よりリスクをコントロールしやすくなります。自分でコントロールできる方が、向き合いやすいと思いませんか。そして、忘れてはいけないのは、転職前提でキャリア形成をしている場合には、親世代がもらえている退職金も、あまりあてにできなくなります。

つまり、資産形成に動かないということは、これまでの世代以上に、将来のリスクを抱えることになりかねないのです。では、どれくらいの額を月々の収入から資産形成に回せばいいのでしょうか。結論から言いましょう。答えは、毎月の収入の総額(給与の額面金額)の16%です。賃金が低い人ほど、16%という数字は重くのしかかります。その場合、今は10%に抑えて、収入が増えたら多めにお金を回すようにする、などというように柔軟に考えれば良いと思ってください。生活水準はなかなか下げられないではなぜ16%なのか、説明します。これはフィデリティ退職・投資教育研究所で実施したアンケートをまとめたデータです。面白いことがわかります。「退職後の生活資金総額は公的年金以外にいくら必要か」を聞いた結果を、性別、年齢ごとに並べてみると、どの年代でも大体、平均3000万円になるのです。

なぜかというと、大半の人が、「1000万円では足りないけれど、5000万円は多くて用意できない」と思っているからです。いくら必要かという問いに対して、5000万円も用意できないと線を引いてしまっているわけです。ところが、このアンケートを年収別に分析し直すと、年収が高い人ほどお金が多く必要になると答えていることがわかります。

年収が上がっていくと生活水準も上がっていきますよね。しかし、退職したからといって簡単に生活水準を落とせない。退職する時に年収1000万円の人と500万円の人が、同じように、例えば1年で300万円の支出で生活できるかといえば、無理があるでしょう。現役時代の年収によって老後の必要な資金には差が出る。これが世界の共通認識です。これが、金融審議会の報告書のなかから、「2000万円」という金額だけに注目が集まっているのはおかしいと考える理由です。生活水準は年収によって人それぞれ。そして退職後も生活水準を簡単には下げられない。ということは、鍵になるのは、退職した時点の年収です。この認識を共有できて初めて、ではどうしたら老後の資産形成ができるかというスタートラインに立てます。退職時に年収の7倍まず、退職時にいくら必要になるか。私たちは、様々な計算式を用いて、退職時点の年収の7倍を用意した方がいいと結論を弾き出しました。未来がどうなるかなんて誰にもわかりません。退職時点の年収を今から想像するのは難しいですよね。そこで、若い人にもっと、老後の資産形成を「自分ごと」にしてもらいたいので、足元の目標を設定しました。それがこちらです。

この図は、「30歳時点でその時の年収の1倍の資産を作っておきましょう」という目安です。運用をこれから始める人は、まずはこの金額が目標になります。30歳の年収の1倍が無理だったら、「頑張って40歳までに2倍貯めよう」と考えてください。いきなり退職時に年収の7倍の資産が必要と言われたら、たいていの人は無理だと諦めてしまいます。ですから、30歳でダメでも40歳時点には目標が達成できるかもしれないと考えてください。そして、この10年ごとの貯蓄額の目標値から、月々の投資額に落とし込んでいくと、収入の16%になるのです。16%の投資の考え方この図から言えることがもう1つあります。最初にこの額を積み立てると決めたら、ずっと同じ額を積み立て続ければいいというわけではないということです。

(写真:William_Potter/iStock)30歳のときに毎月5000円の積み立て投資を始める場合、65歳まで毎月5000円投資を続ければいいというわけではありません。これまで説明してきた通り、年収が上がれば必要金額も増えるわけですから、投資に回す額も増やす必要があるのです。年に1回は積立額の見直しをして、収入総額の16%を資産運用に回すように調整していく必要があります。収入額が少ない若い頃や、子育てやマイホームの取得にお金がかかる時期などは、16%を捻出するのが難しいかもしれません。その場合は、資産形成に回す額を一時的に減らしてもいいでしょう。その代わりに余裕ができたときに多めに資産形成に回して、退職までに帳尻が合うように考えてください。16%には、企業年金や財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄制度)、退職金や確定拠出年金も含みます。ただし、企業の退職金などは制度が複雑で、自分の収入のどれくらいが積み立てられているのか、また現時点でどれくらいの額なのかを把握するのが難しいかもしれません。その場合は、そこのところはあまり深く考えずに、計算してください。そもそも、将来的に転職を視野に入れているならば、企業の退職金を計算に入れることはあまり意味を持たないかもしれませんよね。また、自分が状況を把握できる口座や資金で資産形成をしていくということが重要なので、不明なものはとりあえず検討に入れる必要はないでしょう。「節約」はしないとはいえ、収入の16%を資産形成に回すのは容易ではありません。日々の生活費を節約して投資のための資金を捻出するのは苦しいものです。だから、資産形成を考える第一歩として、「節約」という発想から脱却するべきだと思います。

「収入ー支出=貯蓄・投資」、つまり収入から生活費などを使った後に残りの金額を運用に回すのではなく、「収入ー貯蓄・投資=支出」と考えましょう。つまり、給与が入ったらまず、貯蓄や投資に回し、残った金額で生活するということです。基本的なことですが、老後の資産形成は、長い年月をかけて行うものです。だから、意識しなくてもいい、頑張らなくていいようにシステマチックにしておく方がいい。節約が好きな方にやめるべきだとは言いません。しかし、毎日節約のことを考えていたら多くの人が続きません。節約のために時間と思考を割いているくらいなら、別のことに使った方がいいからです。運用目標は利回り3%運用の目標利回りは年3%を目安とします。モーニングスターのサイトで紹介されている、ETF(上場投資信託)、確定拠出年金(DC)専用を除いた公募投資信託は4923本で、そのうち10年以上の運用実績があるのは1387本あります(9月9日時点)。このうち基準価額ベースの過去10年の平均リターン(信託報酬差し引き後)が3%以上ある投資信託は、78.7%あります。投資は「儲からない」と思い込んでいる人が多いですが、現実はそうとも言えないのです。ここにも「思い込み」があると言っていいでしょう。運用リターンを3%と想定して、毎月5万円の積み立て投資を30年間続けると、複利効果が働き、運用資金の総額は約3000万円になります。

(写真:MicroStockHub/iStock)3%という数字は決して、高い目標ではないのです。だから投信を買ってしまうのがいいと思います。若者よ、リスクを取れ!とは言わないでは、何に投資していけばいいか。長い期間で運用するのであれば、私は高いリターンを狙える商品を運用のコアに据えるべきだと考えます。リターンの高い商品で資産を増やすことを目指すためです。ハイリターンの商品は当然、リスクも高くなる確率が高くなります。だから長期・積立・分散投資でそのリスクをコントロールするようにするのです。ひとつの資産に集中するのではなく、資産を分散して、毎月積み立てで投資するのが前提になります。長い年月をかけて、資産を作っていく場合には、一時的に損失が発生しても、相場が戻る局面で取り戻すことができますから。ハイリスク・ハイリターンの投資信託とは、投資対象資産が株式や、債券の中でもリスクの高いものが多いこと、そして国内ではなく海外の資産の比率が高いものなどが該当します。【イラスト解説】4人のお金のプロと学ぶ「投資の基本・第一歩」しかし、運用の途中で大きく値下がりするのはとても怖いですよね。人間の心理に着目する行動経済学では、若い人ほどリスク耐性が低いということが言われています。株価が大きく下落して、運用資産が大きく減ってしまうと、投資そのものが怖くて、それで投資をやめてしまう人が多いのです。途中で運用をやめてしまうのが一番よくない。これを避けなければなりません。イギリスの確定拠出年金のプロバイダー「国家雇用貯蓄信託(NEST)」では、人間のこうした特性を踏まえて、若い時には少しリスクを抑えて、数年後には資産も増えて投資にも慣れてきたころには、リスクを高くとるようにして、定年退職が近くなったら再びリスクを下げていくという、リスクが台形の形になるように設計されています。このリスク・リターンを自分でコントロールするためには、自分で運用資産を選び、ポートフォリオを構築し、そのポートフォリオを随時見直していく必要があります。それが難しい場合は、「ターゲット・デート・ファンド(TDF)」という、その人の退職までの年限に応じて、運用資産を入れ替えながらリスクコントロールをして運用されている投資信託商品があります。運用を始めた当初の若い頃には株式などリスクをとりつつ、リターンを狙える資産の割合を高めて運用し、退職が近くなるほどリスクの低い資産の比率を高めていく投資信託です。年齢に応じたリスクコントロールを、お任せでやってくれるといえばわかりやすいでしょうか。アメリカでは人気がある商品で、DCのマーケットで一番大きいカテゴリーになっていますが、日本ではまだあまり知られていません。

(写真:bbbrrn/iStock)このファンドは、厚生労働省の社会保障審議会の企業年金部会で、確定拠出年金(DC)のデフォルトファンド(何も選定できなかった人が自動的に指定する商品)に入れるべきという議論をしていたのですが、結局、はいりませんでした。まだまだ定期預金とか保険商品などの元本確保型の金融商品が資産を保全すると考えられて、これらだけがデフォルト商品として認められているのです。若い時には自己投資も必要最後に、若い人に向けて大事なことを伝えます。老後の資産形成のために必要な投資は2つあります。「自己投資」と「資産形成」です。資産形成についてはここまでお話しした通りです。その資産形成には、原資となる収入そのものの増加が実はとても大事な要素になります。金融機関の人間は、「早い時期から投資しましょう」と言うでしょう。でもそれは必ずしも正しいわけではありません。若いうちは自分のスキルアップにお金を回すことも投資です。20代のうちに自己投資をして、のちに年収が上がれば、資産形成に回すお金を増やすこともできます。30代、40代で賃金カーブを上げるために20代は自己投資に一生懸命になった方が、トータルの運用資産が大きくなるということも往々にして起こりえます。投資の考え方をもうちょっと広く見て、金融投資の他に自己投資も含めて、投資するお金の配分を考えてみてください。

野尻 哲史(のじり・さとし)フィデリティ退職・投資教育研究所所長/1982年一橋大学商学部卒業後、山一 証券経済研究所入社。メリルリンチ日本証券調査部を経て、2007年3月よりフィデリティ投信株式会社にてフィデリティ退職・投資教育研究所所長を務める。 著書には『退職金は何もしないと消えていく』『なぜ女性は老後資金を準備できないか』『老後難民 50代夫婦の生き残り術』『日本人の4割は老後準備資金0円 老後難民にならない「逆算の試算準備」』などがある。

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