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【提言】生き残りたければ、ルールを変えよ

2019/9/24まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する新連載「The Prophet」。今回登場するのは、立教大学ビジネススクールの教授でもある田中道昭氏と、世代・トレンド評論家の牛窪恵氏だ。アメリカのeコマース大手、アマゾン研究の第一人者として知られる田中氏と、「おひとりさま(マーケット)」「草食系(男子)」といったタイトルの著書を出し、世相の変化を鋭くとらえてきた牛窪氏が、『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(光文社)を上梓(じょうし)した。アマゾンのような海外のメガテック企業が、流通や小売りの業界に大きな変革を起こしている。今や自動車や住まいなどは所有するのではなく、シェアする人も増えている。ただ、こうした変革を主導するのは海外企業がほとんどだ。多くの日本企業では、従来のビジネスモデルの転換を迫られながらも、うまくいかずにもがいている。新しいビジネスを創造するにあたり、日本企業には何が足りないのか。田中氏にメルカリのビジネスの強みの本質を、牛窪氏に日本企業の課題と処方箋を聞いた。

田中道昭
立教大学ビジネススクール教授/シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略・マーケティング戦略。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長等を歴任。主な著書に『アマゾンが描く2022 年の世界』『GAFA×BATH」などがある。中田敦彦の企業研究番組「NEXT」にレギュラー出演。
アマゾンのルールに乗るな──書籍のサブタイトルに「アマゾンに勝つ!」とあります。アマゾンに対抗して、独自のECサイトを構築する取り組みもありましたが、多くがうまくいっていません。アマゾンに勝つのは可能なのでしょうか。田中 結論から言うと、アマゾンに勝てる企業はありません(笑)。ただ、マーケティングの手法や訴求する価値観次第で、日本企業も勝てる可能性があると考え、タイトルの表現を「アマゾンに勝つ!」にしました。豊富な品ぞろえ、低価格、配送スピードなどアマゾンの力は圧倒的です。翌日配送のような「アマゾンスピード」に社会が慣れてしまうと、それがスタンダードになってしまいます。こうしたルールの上では、勝ち目がありません。だから差別化が必要なのです。

アマゾンが保有する巨大倉庫 写真:ロイター/アフロ──そうした中、アマゾンと明確に差別化できているとして田中さんが注目しているのが、個人間でやりとりするフリーマーケットアプリを提供するメルカリです。田中 私がメルカリに注目するのは、同社がビジネスのルールを変えたからです。メルカリは、「CtoC」という消費者対消費者の取引とみなされていますが、むしろ本質的には、「Peer(仲間) to Peer」(PtoP) という「対等な仲間同士がつながる」サービスのプラットフォームといえます。CtoCでは、個人はモノを取引する売り手と買い手にすぎませんが、PtoPでは、売り手と買い手が価値を共有したり、共感しあったりする仲間の関係になります。「P to P」では、資産の見方や消費行動、価格の決定権など多くの変化がもたらされます。

日本国内で7000万超のダウンロード、利用者数も月間1,000万人を超えるフリマアプリの「メルカリ」私の不用品は誰かの宝物──フリマアプリにより、単にスマホによって個人の所有物を売り買いできるようになっただけではないと。田中 これまで、洋服は衣替えのシーズンごとにゴミ袋に詰められ、捨てられていましたが、メルカリによって、資産とみなされていなかった洋服が、家のような不動産と同様に資産とみなされるようになりました。メルカリのプラットフォームが生まれたことで、多くの人にとっては「ゴミ」だったトイレットペーパーの芯にも値が付きました。子どもの夏休みの工作材料として、お母さんたちが購入したのです。あらゆる品がマッチング可能になったことで、あらゆるものに値段が付き、資産になる。「あなたにとっての不用品が、誰かにとっての宝物になる」時代になりました。

「ゴミ」として捨てていたトイレットペーパーの芯にも値段がつく価格3割で「シェア」する──とはいえ、個人同士で取引するオークションサイトはすでに存在しています。メルカリは従来のサービスと何が違うのですか。田中 マーケティングの視点で言うと、「ヤフオク(ヤフーオークション)」のようなオークションサイトは、買い手同士がなるべく安く欲しいものを手に入れるために「競う」側面があるサービスです。対してメルカリでは、売り手は「捨てずに生かす」ことを望み、買い手は「安心・納得して買いたい」と思う人が多い。もちろん値段も重要ではありますが、そうした安全や納得などに重きを置く層に受け入れられています。

例えば、Aさんが欲しい服が、あるお店で1万円で売られていたとします。Aさんにとって安い買い物ではありません。メルカリで調べてみると、同じ服が7000円で売られていました。後にメルカリで7000円で売ることができるなら、実質的な負担は3000円になるため、Aさんは1万円の服を安心して買うことができます。こうなると、もはや「服を所有する」という感覚は薄れていきます。車や家をシェアするサービスと同様、メルカリを通じて服をシェアするという、新しい消費行動の登場を促しました。マーケティング部門が消費者センター扱いの日本──メルカリのような新しいビジネスに取り組む企業が誕生する一方、日本企業のイノベーションは停滞しているという指摘があります。牛窪 日本企業がマーケティングの弱さを抱えたままでは、アマゾンのような企業には勝てないという危機感を私は持っています。

世代・トレンド評論家/経営学修士(MBA)。インフィニティ代表取締役/マーケティングライター。同志社大学・創造経済研究センター「ビッグデータ解析研究会」部員。日本マネジメント学会、日本マーケティング学会会員。主な著書に「おひとりさま(マーケット)」、「草食系(男子)」がある。ある研究によれば、欧米ではトップ企業500社のうち、マーケティングの最高責任者であるCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)か、それに近い役職が存在する企業が62%に上っていました。一方、日本では、時価総額の上位300社でCMOを任命する企業は0.3%に過ぎません。企業によっては、マーケティングの部署が、消費者相談センターの延長線上のような位置づけになっている場合もあります。日本企業に根強いセクショナリズムの問題によって、マーケティング担当者と技術者・研究開発者との連携がスムーズにいかないこともあります。マーケティングの源流に「支え合い」──「買いたいモノがない」と言われる時代、どんな需要や顧客を想定すればいいのか分からず、マーケティングを難しく感じている企業も増えています。牛窪 モノを大量に作って売る時代が終わった今、あらためてマーケティングの原点に立ち返る必要があります。経済の基本概念の一つに「分業」があります。小説「ロビンソン・クルーソー」の無人島にたどり着いた主人公のごとく、永遠に全部一人でこなして生きていくのならば、分業は必要ありません。でもこのやり方では、規模の拡大に限界があるうえ、いざ自分が病気になったときには生きていけませんね。

ロビンソン・クルーソー分業の本質は、みんなで得意な能力を発揮しながら、社会全体や一人ひとりの人生を豊かにするために支え合うこと。モノを作る、運ぶ、売るといった分業と、それを支えるインフラやマーケティングは、ひとえに社会や人々を幸せにするために存在するはずです。大量生産・大量消費の時代には、競争原理の中で仕事が細分化されすぎて、何のために働いているか分からなくなってしまった人も多いでしょう。でも、支え合いが分業の本当の意義だと考えれば、異なる部署同士が「どうしたら他人がうれしいと思うか」または「どうされたら自分がうれしいと感じるか」を共有するようになりますね。これがマーケティングの原点だと思うのです。マーケティングが難しいと感じている人は、理論に当てはめてがんじがらめに考えるよりも、先に、人々や自分自身への共感から入る。そうして、楽しみながら理論の部分を学んでいくといいと思います。

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