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【櫻田謙悟】就活で会社や職業を決められるわけがない

2019/9/23「普通では駄目なのだ」ケインズなどを一生懸命に勉強したので、教授から「優」の上の「特優」の評価をもらいました。当時、私は大学院進学を考えていました。サラリーマンなんて冗談じゃない。満員電車に乗って、上司の言うことをぺこぺこ聞くなんて真っ平と思っていました。実態は知りませんよ、映画やテレビを見て、そう思ったのでしょうね。

成績は悪くなかったし、試験にも受かったのではないかと思います。ただ、私が尊敬していた教授が大学院進学にどうしても首を縦に振らない。「君のご両親はどういう方か」と聞かれました。「普通のサラリーマンです」と答えたら、「普通では駄目なのだ」と言います。「学者は34、5歳まで食えない。であるからして、誰が見ても“彼なら”という天才か、もしくは両親が裕福である人間が学者を目指すべきだ。君は頭は悪くないと思うが、天才じゃないしね」。こう言われて、学者への道を諦めました。今の会社に決めた理由私は大学4年生でしたが、大学院進学を考えていたため、就職活動を全くしていなかった。すっかり出遅れてしまい、教授に相談すると、ゼミのOBを紹介してくれました。それが金融機関ばかり。「銀行と生保と損保のどこがいいか」と聞かれて、生来のあまのじゃくが顔を出し、「よく分かりませんが、そこでいいです」みたいに決めたのが、今の会社です(笑)。

調べてみたら、かなり条件がいいことが分かりました。まず給料がいい。当時は、ですよ。しかも年に3回、ボーナスも出る。昔は秋、冬、春とあったのです。就業時間は朝9時から夕方4時半まで。「こんなにいい職場はない」と思いました。面接では、もちろんそんな話はしませんよ。「世のため、人のため」みたいなことを言って、最初に内定をもらいました。あといくつか内定をいただきましたが、どうしても行きたい会社がなく、安田火災海上保険に決めました。新卒一括採用に反対今年4月から代表幹事を務める経済同友会でもいつも言っていますが、私は新卒一括採用には反対です。職をかわることがあっても自然だと思います。理由は簡単です。学生で「私は生涯をかけて、この道を極めたい」という人が果たしてサラリーマンになるか。なりませんよね。おそらく医師や弁護士、教授など専門職に進むでしょう。

就職とは文字どおり、職業に就くことですが、この職をきちんとイメージしている学生は、私たちの時代も含め、ほとんどいない。したがって就「社」ですよね。就社だとすると、ますます分からない。半年とか1年程度の短い就職活動期間に数回会っただけで、自分が一生働く会社を決められるはずがありません。ましてや、自分の生涯の職業を決められるわけがない。

だから私は不純な動機で安田火災に入ったとは思っていないのですよ。給料が高い、就業時間が短いという極めて真っ当な動機で入ったと思っています。「出ていけ!」と怒鳴られる私が安田火災に入社したのは、1978年です。新人研修では、火災の申込書の記載を何回やっても100点が取れず、いつも最後まで残されていましたね。たくさん失敗もしました。最初に配属されたのは海損部貨物第2課という部署です。自動車の輸出などに付ける海上保険が主な商品で、私は保険金の支払い担当でした。ある日、お支払いする保険金の額を説明するために重要なお取引先を訪問しました。先方の証拠が不足していたため、全額の支払いが難しかったからです。そこで研修で覚えた論理を駆使して説明したのですが、相手の表情がどんどん険しくなっていく。最後は「出ていけ!」と怒鳴られました。一方的に理詰めで迫ったのが悪かった。いくらこちらの主張が正しかったとしても、相手の身にならず、押し通すだけでは駄目だということを痛感しました。

5年後に本店の営業部へ異動、1987年からは組合専従になりました。やがて書記長に任命され、労働環境の改善に取り組みます。慢性的な長時間残業を減らすため、毎日の就業時間を15分延長し、代わりに夏季休暇を3日から8日に増やす交渉をまとめました。その後は国際金融部での勤務を経て、いよいよフィリピンのマニラにあるアジア開発銀行で働くことになったのです。

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