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【知識】1%を99.9%と錯覚してしまう「偽陽性」という罠

2019/9/23私たちは日常生活やビジネス上で、日々多くの決断をしながら生きている。「このスタートアップ企業に投資すべきか否か」「子供の教育のためには『お受験』をさせるべきか」などがそれに当たる。その際、決定の判断を磨くために必要なのは、十分に学習し知識を身に付けることだ。しかし、仮にそのようにできたとしても、結果が思っていたよりも伴わないという経験はないだろうか。実は、その「期待外れ」を引き起こす要因の一つに「偽陽性(ぎようせい)」がある。時に大きな見込み違いを起こしてしまう、この統計上の”難物”を学んでいこう。「偽陽性」とは何者か「偽陽性」とは、辞書的に言えば「ニセの陽性」と書くように「本来は陰性であるのに、陽性と判断してしまうこと」を指す。例えば、スパムメールが振り分けられるフォルダに、たまに大事なメールが入っている状況がこれに当たる。

(写真:Devonyu/iStock)つまり、問題のないメール(陰性)なのに、誤ってスパム(陽性)だと判断されたのである。一方、本来は、「陽性なのに、陰性」と診断されることを「偽陰性(ぎいんせい)」と言う。スパムメールが通常のメールフォルダに入る(陽性が陰性と診断される)ようなことだ。ここで一つ問題を出したい。Q:10万人に一人がかかるという難病があります。その難病にかかっているかどうかの検査を受けたところ、「陽性(罹患の可能性あり)」という結果が出ました。病院によると、この検査の精度は99.9%だと言います。

では、この時、あなたがこの難病にかかっている可能性は何%でしょうか。

❶99.9% ❷90% ❸50% ❹50%以下
あなたは、99.9%の精度という検査の「陽性」という結果にかなりショックを受けるかもしれない。中には「いや、さすがに99.9%はない。何かの間違いのはずだから、再検査をしてほしい」と訴える人もいるかもしれない。しかし実は、実際に罹患している確率は100分の1(1%)程度だと言ったら驚くだろうか。このように、実際の確率は1%なのに、99.9%だとしてしまう錯誤が「偽陽性」から生じる。ではなぜ、このような錯誤が起こるのだろうか。まず99.9%の精度ということは、0.1%の誤りが生じるということを意味する。この検査を100万人が受けたとすると、「陽性」と出る被験者は、「100万人×0.1%」で1000人である。また、この難病にかかるのは「10万人に1人の割合」なので、実際の罹患者は10人だ。つまり、陽性と診断された1000人のうち、実際の罹患者は10人。その確率は1%(1000分の10=100分の1)となる。

この質問においては、偽陽性の感覚を平易につかんでもらえるように、とても極端なケースを設定した。そのため、すぐに気付いた人も多いかもしれない。ただ、私たちの身の回りの状況はこれほど極端で分かりやすいものではない。スタートアップ投資と偽陽性次に、スタートアップ企業への投資の事例を見てみよう。この成功率は、0.3%、あるいは0.02%とも言われる。スタートアップへの投資案件であれば、この小さな確率を踏まえて有望株を見極めて投資をする必要がある。彼ら(案件担当者)は経験豊富な手練で、自身の判断力に自信があり、投資へのGOサインを自社の出資担当執行役員に進言するとする。大きな投資案件は、最終的にボード(取締役会)に諮ることになるため、執行役員は当然、その検証精度が大いに気になるところだろう。

(写真:Erickson Productions/アフロ)この時、案件担当者が「この案件がうまく行きそうだと99%確信しています」と言ったとする。彼は十分に優秀で実績も出しており、検証精度がその通り99%だと信じられるとして、執行役員はその提案をどう判断・評価すべきだろうか。結論から言えば、スタートアップ全体の平均成功確率が、前述の通り0.02〜0.3%の場合、「その敏腕担当者の判断は70〜95%ほどで失敗し得る」という見通しとなる。投資の意思決定者は、それを踏まえて投資に値する案件だと思えれば、GOサインの判断を冷静に下すべきだろう。念のためフォローしておくと、もし「70〜95%ほどで失敗し得る」としても、蓋然性(確からしさ)を上げているという点で、この担当者は素晴らしい仕事をしている。偽陽性の「厄介さ」を知るではなぜ、そのような「偽陽性の罠」が引き起こされるのだろうか。それは、現実の日常において、本当の確率(真値)がなかなか分からないことが要因に挙げられる。先ほどの難病検査の例で言えば、「難病にかかっている確率(10万分の1)」が本当の確率となる。しかし、実生活において、「本当の確率」が分からないことの方が多い。その一方で、検証精度は、比較的はっきり把握しやすいため、その数字に判断が引きずられてしまいやすい。「99.9%病気だと思っていたら、実は1%だった」という大きな落差があることは非常にまれだろう。しかし、想定する成功確率が実は数分の1以下だったというベンチャーキャピタリストのようなケースはざらにあるだろう。「8割方確実」の誤解凄腕ベンチャーキャピタリストや敏腕リサーチ担当者でなく、ごく一般的なビジネスパーソンにとっても、「8割くらい確実です」といった推定は、プレゼンやレポートでよく聞くフレーズだろう。

(写真:imtmphoto/iStock)ちなみに、検証精度の確からしさが本当に8割程度だとして、検証される事象の発生確率が2割程度であれば、その検証による推論は、実は5割程度しか蓋然性が期待できない。その概算を表す式は、こうなる。 検証で検出する陽性の期待値 ÷
(検証で検出する陽性の期待値 + 検証で見逃す陽性の期待値)
=検証による陽性の確率

つまり、この事例の場合
0.2×0.8 ÷{0.2×0.8+(1.0−0.2)×(1.0−0.8)}=0.5 となる。

ここで注意したいのは、これは担当者の想定の精度を疑っているわけではないのであり、最終的な意思決定の結果を伝える際には、そのような誤解がないようにしっかりとしたコミュニケーションが必要だろうということだ。そして繰り返しになるが、真値(本当の確率、ここでは真の出現確率)が実際には分からないことの方が圧倒的に多いという現実がある。その厄介さを自覚したうえで、偽陽性を意識しつつ数字をより丁寧に吟味するならば、私たちは意思決定の「期待外れ」を少なくしていくことができるだろう。

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