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【櫻田謙悟】攻撃は最大の防御。弱みを見せてはいけない

2019/9/26忘れられた存在アジア開発銀行での4年間の勤務を終え、私は1996年に帰国しました。本当は帰ってきたくはなかった(笑)。当時、アジア開発銀行から世界銀行に転職できる仕組みがあり、「それもいいかな」と思った時期もありました。安田火災は、私が赴任したばかりの頃は優しかったんです。最初は「大丈夫か?」「気をつけてやれよ」という連絡が来ていましたが、だんだん少なくなって、いつしか通達も届かなくなりました(笑)。私は完全に忘れられた存在でした。

ただ、今後の子供の教育を考えると、日本に帰ったほうがいいということになりました。当時、子供たちは小学2年生と5年生。英語は達者だけど、日本のことは完璧には理解できない。「この子たちを何人にしたいか」を女房と話し合い、帰国を決めました。アジア開発銀行を辞めてから2週間ぐらい、家族でセブ島を旅行しました。

(写真:TatianaNurieva/iStock)会社には「いつ頃帰る」と伝えていたつもりでしたが、聞いていないと。おかげでちょっとした失踪騒ぎになり、久々の出社にもかかわらず、「君はどういう考えの人間だ」と怒られました。人事制度改革に着手帰国後、会社に復帰します。今度は人事部特命課長に任命されました。アジア開発銀行時代、マニラで年次総会があり、安田火災の国際担当の副社長がやって来ました。私は食事に誘われ、激励された。そのとき、私本人には何も聞きませんでしたが、大蔵省(当時)からの出向者など周囲に私の評判を聞いてまわったようです。どうやら周囲が良く話してくれたらしく、人事部長に「櫻田はいい」と言ってくれていたようです。その人事部長が人事制度改革を進めるにあたって、私を特命課長に選んでくれたのです。

そして1997年から人事制度改革を手掛けました。一番波紋を呼んだのは「イスに値段を付ける」ことです。当時、同じ役職であれば、全員処遇が同一でした。職責の重さや組織の規模などがそれぞれ異なるのに、横並びはおかしい。

そこでまず私は部長のイスをABCの3段階に格付けし、それに合わせて報酬額を変更する、という改革案を提言しました。世界からプロフェッショナルが集まり、実力のみが評価されるアジア開発銀行にいた私からすれば、イスに値段が付くのは当たり前でしたが、社内から非難囂囂。かなりの役職者が既得権益を失うわけですからね。大げんかをしていましたよ。安田火災の企業文化を壊すと、全員が改革案に反対。あまりに強く言う社員がいたので「お前には聞いていない」と言ったら、「お前とは何だ」とまた揉めて。英語なら「You」ですから、英語だったらよかったのに、と思いました。

上司に感謝感謝しているのは、どんな場面でも人事部長は黙って聞いていてくれたことです。部長の承認を得て、常務会案を作りました。課長としてはおそらく初めて常務会で説明をしました。ここでも侃侃諤諤の議論になったものの「いける!」と思った矢先、「こんな制度は危険だ」と上層部から“天の声”がありました。人事部長が案をモデレートし、角を落としてくれたおかげで最後は何とか着地しました。

今でもこの制度は社内で運用されていて、さらに広がっています。ホールディングスでは常務、専務という役職をなくし、現在はCFO(最高財務責任者)やCIO (最高情報責任者)といった名称を一人一人に付けています。一律同じだと競争を生まないし、お互いに傷のなめ合いになりますからね。

一連の改革は今振り返れば、先進的なものだったと思います。こうした大胆な取り組みができたのは、何より私に「思い切りやらせてみよう」と考えた人事部長と人事担当役員がいたからです。おそらく人事部長も人事担当役員の副社長も「今のままでは、この会社は駄目になる」と考えていたのでしょう。

ただ、ではどうすべきか、という答えが見つかっていなかった。私がそれを持っていたので、「かなり乱暴な案だが、やらせてみるか」となったのだと思います。弱みを見せてはいけない周囲に強く反発されながらも、私はなぜ信念を貫けたのか。私は高校生ぐらいの時から「日本はおかしい。このままではこの国は駄目になる」と思っていました。みんな横ばかり見て、上に行こうとすると足を引っ張ろうとする。社会的に重要な課題より、芸能人の結婚のニュースなどで盛り上がる。「みんな一緒の国って危ない」とも感じていました。

生意気かもしれませんが、振り返れば、当時の安田火災は、まさにその縮図のような組織だったのです。しかし、信念を貫く過程でよく潰されなかったものです。この経験から、若い人によく言うのですが、攻撃は最大の防御です。

狂犬と戦うとき、キャイン、キャインと逃げると、追いかけてくる。こちらが逃げると、狂犬はどこまでも追いかけてきて噛むんですよ。弱みを見せるから、そうなる。だから、自分がぶつかろうとしている権力に弱みを見せてはいけないのです。

とはいえ、がむしゃらにただ相手に噛み付いて、正論を主張するのも駄目。相手と自分が置かれた状況を踏まえ、戦略や戦術を立てないと、何事も実現できません。だから逃げて弱みを見せてはいけませんが、時にはおもねることも必要です。忖度はすべて駄目というわけじゃない。私の場合、やりたいことを実現するために、「この人を味方につけたい」と考えて忖度することはありました。

逃げてはいけないけど、がむしゃらに立ち向かってもいけない。相手を自分の懐に抱えて時には忖度することも必要なのです。

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