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コナン、クレしん、ドラえもん……ヒットが続く定番アニメ映画の強み

8月25日時点で、アニメーション映画『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』の興業収入(興収)が91億8270万2500円を記録した。これで、2013年に公開された『名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)』から7作連続で最高興収を更新したことになる。近年は『名探偵コナン』『ドラえもん』といった定番アニメが、歴代最高もしくはそれに準ずる成績を記録して、ランキングをにぎわしている。もちろん『ポケットモンスター』『クレヨンしんちゃん』といった1990年代から始まった定番アニメシリーズも、今もなお安定した人気を誇る。これらの定番アニメシリーズの強さとは何なのか。(ライター・壬生智裕/Yahoo!ニュース 特集編集部)

ファンが「卒業」しない『名探偵コナン』

4月12日に公開された『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』はやはり強かった。特に今年はゴールデンウィークの10連休があったことや、それまで『名探偵コナン』と同日公開だった『クレヨンしんちゃん』が1週遅れで公開されたことも追い風に、人気キャラクターの怪盗キッドや京極真などが登場したこと、そして何より前作の大ヒットによる新作への期待感など、さまざまな要因が重なりハイペースの興収につながった。

1997年の『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』から始まった『劇場版名探偵コナン』シリーズ。最初の2作品こそ最終興収10億円台止まりだったが、その後は25~35億円の間を推移。そして2013年の『名探偵コナン 絶海の探偵』で“35億円の壁”を越える。その後は驚異的な伸びで毎年シリーズ最高興収を更新し続け、昨年“90億円の壁”を一気に突破した。

アニメ関連のウェブサイト「アニメ!アニメ!」「アニメ!アニメ!ビズ」の元編集長で、アニメジャーナリストの数土直志氏はこう指摘する。

「かつてのアニメは小学校にあがる前から見始めて、大人になったら卒業する、という流れがあったと思います。しかし『名探偵コナン』は高校生、大学生、社会人になっても好きでいる人が多い。それでいて、下の世代が新たに“入学”してくるわけですから。どんどん客層が積み上がっていくのは大きい」

そして「コナン」や「ドラえもん」の強さは、配給が東宝というアドバンテージもあるようだ。映画情報サイト「映画.com」で「国内映画ランキング」の記事を担当する和田隆氏は言う。

「シネコンチェーンのTOHOシネマズは国内2位のスクリーン数を持ち、立地も良いなど、集客力に定評がある。東宝配給=TOHOシネマズで公開できることも、好成績に結びついている。そして何より大きいのが予告編。実写、アニメにかかわらず、東宝作品を見ていると、必然的に『ドラえもん』や『名探偵コナン』の予告編を目にするので、それだけ多くのお客さんに訴求できる。そうしたプラスの循環が生まれている」

鳥山明氏が脚本とキャラクターデザインを担当の『ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー』や、尾田栄一郎氏監修の劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』など、作品の世界観を誰よりも知る原作者が製作チームに加わることが、原作ファンを失望させず支持される秘訣であることは間違いない。

『劇場版名探偵コナン』シリーズも、原作者・青山剛昌氏との密な連携が作品の強力な後ろ盾だ。同作を手がける諏訪道彦プロデューサーは、今年6月のデジタルハリウッド大学での特別講座で青山氏の貢献度の高さを語っている。

「青山先生は原作者としてクレジットされていますが、やっていることは製作総指揮以上。映画のキャラクターに先生の手を入れてもらっているし、こちらから新たなアイデアを出したりとキャッチボールをして。絵づくりの表情や、ラブコメ的な要素でも助けられている」

2010年代に花開いた、定番化への仕込み

『名探偵コナン』同様、『ドラえもん』も右肩上がりの興行が続く。ターニングポイントは、05年4月からのテレビシリーズおよび、06年の『ドラえもん のび太の恐竜2006』で行われた声優陣の「刷新」だろう。20億円台に落ち込むこともあったシリーズのカンフル剤となり、同作の最終興収は32.8億円を記録し、その後もおおむね興収30億円以上をキープ。特に15年以降は毎年のようにシリーズ最高興収を更新している。

「2年から3年に1回は大山のぶ代時代の『ドラえもん映画』をリブートするなど、旧来のファンへの目配りを忘れていないのも強さの秘密。子どもの頃にドラえもんを見ていた親が、子どもと見に行くようになってきた。劇場版シリーズではありませんが、『STAND BY ME ドラえもん』(14年公開、興収約83億円)のように大人も見られる作品と周知されれば、一気に興収が跳ね上がる」(数土氏)

『クレヨンしんちゃん』シリーズは、コンスタントに10~20億円程度の興収を稼ぎ出している。大人も泣けるというブランディングが定着、特に14年の『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』以降は興収も好調で、15年の『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 ~サボテン大襲撃~』はシリーズ最高興収の22.9億円を記録した。

『劇場版ポケットモンスター』も「定番化」しているシリーズだ。第1作『劇場版ポケットモンスター/ミュウツーの逆襲』(98年)が興収76億円を記録。その後も、おおむね興収30億~50億円の間で推移した。12年から興収は徐々に下がったが、20周年記念作品『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』(17年)で、主人公サトシとピカチュウの出会いの物語を描くなど原点回帰でテコ入れを図った。ポケモン映画初の大人限定試写会を実施するなど、「大人も楽しめるポケモン映画」もアピールし、幼い頃にポケモンに慣れ親しんだ世代を劇場に呼び戻した。最終興収は35.5億円を達成。翌年の『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』も興収30.9億円を記録した。

興行通信社の歴代興収ランキングでは、『千と千尋の神隠し』(308.0億円/歴代1位)、『君の名は。』(250億円/歴代4位)などを筆頭に、日本のアニメ作品(というよりも、宮崎アニメ、新海アニメ)が4本ランクインしている(洋邦合わせると、255億円で歴代3位の『アナと雪の女王』を合わせた5本がアニメ作品)。作家性の強い監督の個性が、ある種のブランドとして大衆に支持された形だ。

だが、もう 一つの柱として、日本のアニメーション文化(であり、日本の映画業界)を支えてきたのが、『名探偵コナン』や『ドラえもん』といった定番アニメシリーズだった。春休みは『ドラえもん』、ゴールデンウィークは『名探偵コナン』と『クレヨンしんちゃん』、夏休みは『ポケットモンスター』、冬休みは『妖怪ウォッチ』といった具合に、一定の売り上げが期待できる優良コンテンツがそろう。18年度の邦画興収ランキングでも、この5本が上位15本にランクインしている。

「東宝配給作品のプログラムの配置は盤石だと思います。以前、東宝の取締役も、『春・夏・お正月などに定番のアニメを置いて、そこでしっかりと興収の土台を作ることが大事』とおっしゃっていた。00年代はある程度の仕込みの時期でしたが、それが10年代に花開き、今はさらに加速した印象があります」(映画.comの和田氏)

定番アニメシリーズが経営を下支えするという位置づけは、東映も同様だ。『プリキュア』シリーズ(18年邦画年間27位)や、『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』(公開は数年に1本というペース)などがある。

日本映画を下支えする、定番アニメの勢いは続く

定番アニメの人気には、「作品選びを失敗したくない」「なじみ深い定番作品を見たほうが安心」といった「観客の安定志向」心理が強くなったという側面もあるだろう。そして「世間のアニメへの抵抗感がなくなってきたという点もある」と数土氏は言う。

「アニメが一般層に浸透したのは10年以降のこと。コアなアニメは興収10億を超えられないと言われていたんですが、『ラブライブ!』や『魔法少女まどか☆マギカ』といったコアな作品が興収20億円を突破するようになった。コアなファンだけでなくて、一般層もアニメを見るようになった影響も大きいと思います。みんなが観ている作品であればSNSのネタになるので、拡散されてさらなるヒットにつながる。今後もしばらくは定番アニメが強い傾向は続きそうです」

SNS時代が、定番アニメの強さを支えている部分もあるようだ。

「例えば『名探偵コナン』は、『初日3日間の興収が前作超えの大ヒット』といったことがニュースとなり、SNSで拡散している。内容が良ければ、さらに口コミが広がっていく。10年前以上にSNSの拡散力がプラスになっているように感じます」(和田氏)

2000年以降、劇場映画全体の興収はおよそ2000億円前後で推移していたが、東日本大震災の影響で休館が相次いだ11年は1811億円ほどに落ち込んだ。これが14年には2000億円台にまで回復。その後も全体的に増加傾向を維持する。14年以降の興収躍進の顕著な定番アニメシリーズが、全体の興収を下支えしてきた格好だ。

今年の上半期邦画興収ランキングでは、『名探偵コナン 紺青の拳』『映画ドラえもん のび太の月面探査記』『ドラゴンボール超 ブロリー』『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』の4本がトップ10にランクインするなど、定番アニメの強さは際立つ。和田氏はこうも言う。

「ここ数年、アニメ作品の隆盛が目立ちますが、その分、実写作品の成績が下降気味になっているのが気になります。そのうち、邦画の年間興収ランキングトップ10がアニメ作品で占められる時代が来ることもあるかもしれません」

実際、来年も定番アニメの勢いは続きそうだ。

『劇場版ドラえもん』は、シリーズ史上最高興収53.7億を達成したコンビ、監督・今井一暁氏と脚本・川村元気氏による『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の公開が決定。しかもシリーズ第40作となる記念作品だ。『クレヨンしんちゃん』は、『ラブライブ!』の京極尚彦監督、『そこのみにて光輝く』の高田亮氏・脚本という異色のタッグが実現したシリーズ第28作『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』の公開が控える。『劇場版名探偵コナン』は、いまだ劇場公開の続く「紺青の拳」が興収93億円を突破。次回作の詳細はまだ明らかになっていないが、人気キャラクターの赤井秀一の登場が噂されるなど「興収100億円」を目指したさまざまな仕掛けが打たれるのは間違いないだろう。

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