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世界を変えるテクノロジー「量子コンピューター」とは何か

2019/10/15近年、話題の量子コンピューター。スーパーコンピューターを超える次世代のコンピューターとして期待されているが、それが何なのか、理解するのは非常に難しい。東北大学大学院の大関真之准教授とデンソーの寺部雅能氏の共著、『量子コンピューターが変える未来』(オーム社)は、量子力学を研究する大関氏と、量子コンピューターの使い道をビジネスの現場で検証する寺部氏の視点を交錯させながら、量子コンピューターとは何かを浮かび上がらせる。量子コンピューターはすでに、研究室を飛び出し、社会でどう使われるかを検証する段階に入りつつある。では、そもそも量子コンピューターとは何か、それは社会をどう変える可能性を秘めているのか。3回にわたって二人の対談をお届けする。

寺部雅能(てらべ・まさよし、左)1983年生まれ。名古屋大学大学院量子工学研究科修士課程修了。2007年デンソー入社。現在はデンソー先端技術研究所担当係長。専門はコンピュータアーキテクチャ、車載通信など。
大関真之(おおぜき・まさゆき)1982年生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程早期修了。博士(理学)。現在は東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授。専門は統計力学、量子力学、機械学習「人間の体を調べる」コンピューター──量子コンピューターは、量子力学の「重ね合わせの原理」を利用したコンピューターと説明されることが多いのですが、多くの人は入り口で挫折します。まず、ビジネスマンがまず押さえておくべき量子コンピューターの特徴を教えてください。大関 一言で言うと、今のコンピューターではできないことを実現するコンピューターです。今のコンピューターで調べるのが難しいことの一つは、人間の体のことです。その一例が、体内での薬の化学反応のシミュレーションです。原子と分子が「よーいドン!」の後にどう反応するのかを計算します。量子力学というルールに基づいて反応することはわかっているのですが、そのルール通りに今のコンピューターに計算させると、非常に時間がかかる、メモリが足りない、などの問題が出てきます。一方、量子コンピューターは、原子と分子の量子力学の動作原理を、わざわざプログラムしなくてもコンピューター自身が知っている。だから負担なく計算できます。

(撮影:竹井俊晴)今の既存のコンピューター(古典コンピューター)はすごく正確なんです。0の状態、1の状態、という具合に数値をフィックスしたら、その特定の状態で答えを導き出します。量子コンピューターでは、その数値が別の数値になった場合、これを「揺らぐ」と言いますが、そういった場合も同時に検討できます。それが「重ね合わせの状態」で、それを計算に活かしていきましょうというのが量子コンピューターです。不確定な宇宙を応用する──計算の原理が量子力学というわけですね。大関 普通、僕らの世界では、球をここに置いたら、ずっとそこにあります。しかし、量子の世界では、ピョンと違うところに飛び移ることがあります。この量子の動きは、放射線がポンッと突然出てくる現象などで観測できます。放射線は原子核や電子などの小さい粒で、それらの粒は通常、何らかの物体に閉じ込められているものですが、ポロッと取れて出てくることがある。

(撮影:竹井俊晴)ほかのところに行ったらどうなるか、ある意味で探っているわけです。こういった特徴を計算の原理に利用しようと作られたのが量子コンピューターです。──目に見えるニュートン力学の世界と、極小の量子の量子力学の世界は違うということですね。大関 そうですね。「不確定性原理」と言ったりしますが、不確定で決まらないということが、むしろ僕らの宇宙だったということです。そんなの信じられないと思うかもしれませんが、一粒一粒のレベルではそうなっています。僕らの体内でも、エネルギーをスムーズに循環させるために量子力学が働いているだろうということがわかってきています。目には見えないけど、結果として起きている現象がある。そういうことが起こっていると信じるしかないわけです。それをさらに進めて、怖いものだと思わず、恐れずに、逆に使ってみよう、という感じで出てきたのが量子コンピューターです。量子コンピューターの研究をすることで、量子力学の実験をしているという発想が近いと思います。それが今、量子コンピューターの研究レベルで起こっていることです。

カナダD-Wave社の量子アニーリングマシン。多くの企業はクラウドサービスで利用している(写真:ロイター/アフロ)計算が速いだけではない──一般的に、量子コンピューターは今ある古典コンピューターよりも、さらにもっと速い計算速度を持ったすごいコンピューターだと思われています。しかし、そういうものではないということですか。大関 そういうことです。今のコンピューターがただ速くなるということではありません。量子力学が得意な問題を、古典コンピューターでは到底及ばない速度、精度、表現力で処理できるコンピューターということです。古典コンピューターは優秀なので、ある程度までは量子コンピューター的な処理をまねできます。でも、もうごまかしが利かなくなってきた。だから、量子コンピューター本人にやらせましょう、という状況ですね。デジタルコンピューターと量子コンピューターは、全く違う方向のものです。量子コンピューターが得意なのは、薬などの原子、分子の創造の世界で、その発展として「組み合わせ最適化問題」などの副産物がどんどん出てきています。一方、古典コンピューターは、WordやExcelで処理するような、繰り返しの作業を間違いなく実行できるのが強みです。それはそれで発達させてほしいですね。寺部 僕は技術的な視点というより、アプリケーション(用途)の側に立って量子コンピューターを捉えています。

(撮影:竹井俊晴)大関先生をきっかけに4年前に量子コンピューターを知り、素人の状態から勉強してきた立場で思うのは、量子コンピューターは将来、世の中を変革するインパクトとポテンシャルを持っているということです。ただ、今の段階から前に進めるためには、もっと世の中の人が量子コンピューターを知り、一方で技術大好きな研究者の方も世の中を知り、というふうにその溝を埋めないと進まないと感じています。ゲート方式と量子アニーリング──量子コンピューターは「ゲート方式」と「量子アニーリング方式」に大別されます。実用化が進んでいるのは量子アニーリングの方ですね。大関 まず先に、量子コンピューターの二つのタイプについて押さえておきましょう。

ゲート方式は、何でも超高速で計算できるコンピューターのイメージで、原理的には従来のコンピューターができるあらゆる計算ができます。今、世界中で研究が進んでいます。汎用型のゲート方式の量子コンピューターはいずれ実現すると思っています。ただ、何でも置き換えられる水準になるのは、僕らが生きている間には無理だと思います。もちろん、ある特定の計算において、普通のコンピューターを超えることは、そう遠くないうちに実現するでしょう。まずは普通のコンピューターとハイブリッドで使っていくことになると思います。一方、量子アニーリングは、東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史さん(現在はデンソー先端技術研究所所属)の研究を基に、カナダのD-Wave(ディーウェーブ)社がマシンを開発して、2011年に「世界初の商用量子コンピューター」として発売されました。量子を知れば知るほど、何か新しいことができるんじゃないか、という中で出てきたのが量子アニーリングです。量子アニーリング方式ができることは一つ。「何かを最適化すること」です。それは、「いろいろな可能性の中から一つベストなものを選び出す」ことです。

(撮影:竹井俊晴)得意分野は道順探し──量子アニーリングが得意な「組み合わせ最適化問題」とはどんな問題ですか。大関 人生や日常生活で、あっち行ったらどうなるんだろう、こっち行ったらどうなるんだろうと考えることがありますよね。その悩みを解決するための装置として、量子アニーリングは使えるんじゃないかという発想です。その中でも特に企業が注目しているのが、組み合わせ最適化問題です。

組み合わせ最適化でよく使われる例が、道順選びの問題です。どちらの道に行ったら最適なのかを問う経路選択を考える時、例えば、東京駅から日本橋のデンソーのオフィスまで行くまでに複数の交差点がありますよね。その交差点の数だけ右折、左折、直進と、どんどん分岐が続いていく。その組み合わせは膨大な数になります。それをしらみつぶしに全部調べていたら時間切れになります。今のコンピューターはそれを克服するために、解き方で工夫をしています。「もう右は絶対ない」とか「左は遠回りだから絶対ない」とか、工夫をして計算の手数を少なくしている。でも、複雑な問題を計算するにはやっぱり時間がかかります。じゃあ、量子力学を使ったら何かいろいろな可能性が考えられるんじゃないかということが、今、模索されている段階です。同時に、こういう計算ができるのであれば、ビジネスシーンでこんなサービスが考えられるとか、実際の応用を考える動きが量子コンピューターのハードの開発と並行して進んでいます。

(写真:iStock/Alexyz3d)寺部 量子コンピューターを使うと、今までシミュレーションでしかできなかった空想、妄想の世界のものを、現実の世界に持ってくることができると捉えています。例えば渋滞を回避しようとする時、車が30台、各車が3通りの経路選択を持つ場合、200兆通りの経路の組み合わせになります。普通のコンピューターでは計算に1カ月以上かかることもあるので、研究室でのシミュレーションにとどまっています。それが、量子コンピューターなり量子アニーリングという技術を使って、例えば1分で解けるようになったら、街中の車の経路、人のルートを最適化して、リアルタイムに社会を良くしていく、みたいなことができるかもしれない。交通の最適化以外にもいろいろなシミュレーションがリアルタイムにできるようになったら、社会がどう変わっていくのだろうと非常にワクワクします。大関 今、企業が参加する形で、量子コンピューターを使って何ができるかについての研究が進められています。「パーティーを開いたけどお客さんが誰も来ない」という状態になったら困るので、こういうふうに使えますよ、使いたい人はいませんか、と対話しながら開発するのがベストだと思います。明日は、実際に企業がどんな使い方を研究しているのかについてお話しします。

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