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【藤野英人】人生を変えた「中小企業のオヤジ」との出会い

2019/10/26投資家視点で「人生を切り開く戦略」を提案する、カリスマファンドマネジャーの藤野英人氏。インタビュー第2回では、藤野氏がファンドマネジャーになるまでの経緯や、投資の目的を「世の中をよくして明るい未来をつくること」と定義する、その思想の背景にせまる。【新】「投資家のような生き方」が日本人を救う超悲観主義は超楽観主義に通じる──前回、世の多くの人は「悲観主義」にとらわれているという話がありました。藤野さん自身は、「楽観主義者」なのでしょうか?藤野 投資家としてマーケットに向き合うときは「淡々とやる」ことが大事ですから、株式市場が暴騰したからといって楽観することはありません。投資に求められるのは、相場が上昇してみんなが浮足立っているときに売却し、みんなが怯えているときに買う冷静さ。マーケットが上がろうと下がろうと、「自分の軸」を持ち、行動やリズムを変えないことが大切なのです。人生についても同じことが言えるのではないでしょうか。──つねに「客観的」であれ、と。僕は、両極端の性格の持ち主である両親を見て育ちました。母のほうは超楽観主義者。ワコールで40年以上ブラジャーの販売員をしていて、トップクラスの成績をおさめていました。母が生き生きと働く姿は、「働くことは自分の能力を生かすことで、楽しいことだ」という僕の考え方の原点になっています。

一方、父は真逆の超悲観主義者なんです。いつも「もう昇進はできない」「自分は必ず失敗する」みたいな感じでした(笑)。「この2人、よく離婚しなかったな」と今でも感心するのですが、「あんた暗すぎるよ!」とツッコミを入れる母の明るさで成り立っていたようなところはありますね。──その両方の血が、藤野さんには受け継がれているわけですね。父の超悲観主義も、ある種の強さではあるんですよ。あるとき、父に血尿が出たんです。ふつうは「疲れが溜まっているのかな?」と考えるところですが、父はもうその瞬間に「がんで死ぬ」と思い込んで、すぐに病院に行くわけです。ところが、結果的にはそれで早期に膀胱がんが見つかり、治すことができた。父のような人は、物事を極端に悲観的に予測するぶん、最悪なことが起きても「やはりな」という感じでダメージが少ない。ある意味「予想通り」なんです。──悲観的すぎることで、逆に心が安定しているんですね。超悲観主義は超楽観主義に通じるんですよね。そうした物事の考え方は、不確定性に対する父なりの対処の仕方だったと思いますし、「こういう強さもあるのか」と僕も驚き呆れて見ていました。

お金を稼ぐことの「汚さと崇高さ」──藤野さんは、どのような経緯でファンドマネジャーになったのですか?もともとファンドマネジャーになりたかったわけではなく、検事を目指していました。祖父が裁判官で、父にも「お前は裁判官に向いている」と言われていたのですが、検事を目指したのは、高校の大先輩に検事総長を務めた伊藤栄樹さんがいたから。「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」という、伊藤さんの言葉に惹かれました。ところが、検事を目指して大学でも法律の勉強をしたものの、在学中に司法試験に合格できませんでした。それで「2~3年は社会で働いてお金を稼ぎ、それから司法試験の勉強をしよう」と考えたのです。そのとき「金融の知識を持っている人は弁護士には少ないし、これからは金融犯罪も増えるだろう。お金もしっかり稼げるから、金融機関の仕事をするのはすごくいい経験になると思う」と大学の先生に勧められて、野村投資顧問(現在の野村アセット・マネジメント投信)に入社しました。当時は腰かけの仕事という感覚で、ファンドマネジャーとして生きていくつもりは1ミリもありませんでしたね。

(phongphan5922/iStock Getty Images Plus)──そこから、資産運用会社の起業を考えるようになったのはなぜだったのでしょうか。最初に中堅中小企業への投資の部署に配属されたのが大きかったです。僕はファンドマネジャーの仕事って、三菱重工やイオンのような大会社にアタッシェケースを持って訪れて、スマートに対話をするものだと思っていたのですが、それが中堅中小企業の場合は全然違った。その当時、上場したばかりの会社の社長というと、見た目もヤクザみたいなおっさんだらけで。最初はどうにもうさんくさく感じて、その人たちと話すことが本当にイヤでした。「いつか検事になって逮捕してやる」と思っていましたね(笑)。ところが3年間ほどその仕事を続けていると、「これが社会のリアルなんだ」とわかってきたのです。小さな地方の工場だと思っていた会社が、実は世界の産業になくてはならない部品を作っている会社だったりする。社会の裏側で日本を、世界を支えている会社がある。それに驚かされると同時に、「自分が産業を支えている」と熱苦しいほどの自負を持つ社長の姿に共感していきました。

(Monty Rakusen/Cultura)当時はまだ企業のコンプライアンスやガバナンスといった概念も重要視されていない時代。除菌をされる前、クリーンな状態になる前の、生々しい企業の実態を見ることもできました。みんながお金を稼ぐことに必死で、その「汚さ」と「崇高さ」の両面を知ることができたのです。おっさんたちのリアルなストーリーはとにかく面白かったですし、その世界のカラフルさに魅了されて、「自分も同じ場所で生きてみたい」と思ったのが、起業を思い立ったきっかけです。──検事になるという目標は……?その頃にはもう忘れていました(笑)。就職から4年半ほどが経ったとき、寮を引き払ったのですが、そのときに司法試験関係の参考書がいっぱい出てきて、「俺はこういう仕事に就くつもりだったんだ」と、ようやく思い出したくらいです。

「運の流れ」に身を任せる大切さ僕に限らず、起業家になった人たちには、プラン通りの人生を歩んでいる人は少ないです。基本的に行き当たりばったりで、そのなかで何かにめぐり合い、めぐり合った仕事を天職だと信じて邁進する。その結果として成功を収めた……という人が大半ですね。前回、投資の本質とは「エネルギーを投入すること」であると言いましたが、その「エネルギー」とは何かというと、僕は、「主体性」「時間」「お金」「決断」「運」の掛け算であると説明しています。

その中では、運の流れに身を任せながら決断をすることも非常に大切。「自分がなぜこの場所にいるのか」ということは、偶然のめぐり合わせなしには説明できないものですから。たとえば靴下メーカー「タビオ」の創業者・越智直正さんは、実家にあまりお金がなく、親の勧めで中学卒業後に靴下問屋に丁稚奉公に出ていました。そこで靴下という存在に愛情が湧きはじめて、自分の仕事にしようと起業を決意したんですよね。僕の起業も、越智さんと似ている部分があります。たまたま投資顧問の会社に就職し、そこで起業を決意したので、運用会社を立ち上げるのが自然な流れでした。【新】丁稚奉公から「靴下屋」を築いた男、経営と人生を語るまた、起業を考えるようになってからは、ファンドマネジャーの仕事を極めつつ、「どうすれば起業できるのか」ということと「投資はどうすれば成功できるのか」ということをシンクロさせて考えていました。それが、自分の仕事をユニークなものとして形成できるきっかけになったと思います。──「計算ずくで、最短距離で成功を掴む」という話ではないのですね。そういった世界では全くないですね。だから僕、「コスパ」という言葉が大嫌いなんですよ。「コスパを重視する生き方はコスパが悪い」と思っています。そもそも「コスパがいい」と言われる物事は、非常に短いタームのコストパフォーマンスだけを最適化したものがほとんどです。より長い期間で見ると、「コスパが悪そうに見えるものほどコスパがいい」という逆転現象が起こる。

たとえば、読書などでもその現象は起こります。古典的な名著を読むにも、短時間で要旨を掴むには、要約版のような本を読むのがコスパがいいとされています。逆に、オリジナルを一冊通して読むのは時間がかかるし、コスパが悪いと言われる。しかし、時間をかけて読むことが長期的には自分の蓄えになり、そのときには特に意識していなかった内容が、のちに考えや判断に大きな影響をおよぼし、結果的にプラスとして出てくることもあるわけです。僕の場合は、「中小企業の社長を中心に、延べ7000人以上の経営者と面談を重ねてきた」という時間を要する経験が、自分の大きな蓄えとなっていますね。

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