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【証言】脱落者続出! EVベンチャーの生存者の秘密

2019/10/28異業種やスタートアップによる電気自動車(EV)への参入が活発化している。11月4日まで開催中の東京モーターショー2019でも、EV関連の展示が目立った。そんな中、2020年春にも、水面に浮いて移動できるEVが日本に上陸するとして注目が集まっている。EVベンチャーのFOMM(フォム、本社・川崎市幸区)がタイで生産・販売するEV「FOMM ONE(フォム・ワン)」を日本に輸入販売する計画だ。

9月にタイで起きた水害では、周囲が冠水して孤立してしまった村にFOMM ONEを使って水面を移動し、救援物資を届けたという。外装を軽量なプラスチック製にするなどし、浮かぶようにした。タイヤの回転で、水を後ろに押し出して推進力を得る。(写真:FOMM提供)水害が増加傾向にある日本でも注目を集めそうだ。EVの商業化は難しいEVはモーターとバッテリーを中心としたシンプルな車体構造のため、ガソリン車に比べて参入障壁が低いと言われてきた。EVで世界最大の販売量を誇る米テスラに続けとばかり、世界各地でEVベンチャーが立ち上がっている。だが、EVの量産に成功した企業は少ない。EV参入を表明していた英国の高級家電メーカーのダイソンは10月、2020年までの投入を目指していたEVの開発プロジェクトを中止した。中国ではEVベンチャーが車両の発火問題などを起こして失速している。そうした中で、なぜFOMMは量産化にこぎ着けることができたのか。NewsPicks編集部はFOMMの鶴巻日出夫社長に直撃し、2013年2月のFOMM設立から量産に至るまでの道のりや、なぜ新規参入組がEVの事業化で苦心するのかについて聞いた。水に浮かぶだけじゃない──日本上陸を見据え、東京モーターショーに出展しました。鶴巻 早ければ2020年春に、軽自動車ナンバーを取得できる見通しとなりました。価格は、タイでの販売価格(約220万円)に輸入にかかる費用が上乗せされると思います。

鶴巻日出夫(つるまき・ひでお)
1962年生まれ 1982年鈴木自動車工業(現スズキ)に入社し、バイクのエンジンや車体などの設計を担当。1997年にアラコに移り、一人乗り電気自動車「コムス」などの開発に携わる。その後トヨタ車体でも新型コムスの企画開発に従事。2012年にSIM-Driveで超小型EVの企画に携わり、2013年にFOMM設立。
(写真:平岡乾)──2017年にFOMMと資本提携したヤマダ電機が日本でEVの販売を担うのですか。ヤマダは2020年めどにEV販売に参入すると当時、表明していました。当時はヤマダ電機とそのような計画を立てていましたが、今は流動的です。まずは当社が直接販売します。主な販売先は自治体などになると思います。当初は数十台規模の販売になると思いますが、知名度を上げながら、販売数を伸ばしていきたいです。FOMMは水面に浮くEVで知られてますが、コンパクトな車両ながらもハンドル側にアクセル操作のレバーがあるので、足元はブレーキペダルのみです。なので、足元が狭く感じないし、ブレーキの踏み間違いもない。インホイールモーターの採用や、座席の下に電池を置いたことで、車内空間もできる限り確保しました。最大で4人乗車できる点もアピール出来ると思っています。──鶴巻社長はトヨタ自動車グループで一人乗りEV「コムス」の開発に携わった経験がありますね。大企業を飛び出て、起業したのはなぜですか。2011年の東日本大震災で、乗用車で逃げようとした人が渋滞に巻き込まれ、津波に流されたのを知ってショックを受けました。ただ、足腰が弱っている方は避難する時に車を使わざるをえない。だったら、4人乗ることができて、緊急時には水に浮く超小型EVを作ろうと思い、起業しました。

「FOMM ONE(フォム・ワン)」
乗車定員:4名
駆動:前輪駆動(インホイールモーター)
最高速度:80km
航続距離:166km(NEDC)
車両重量:620kg
電池:交換式リチウムイオンバッテリーを4台搭載(1台あたり30kg)
タイでの販売価格:日本円で約220万円
(写真:平岡乾)タイ首相も乗った──事業はタイで始めました。日本は規制もあって、自動車ナンバーを取得して公道で走れそうもなかったので、まずは海外で事業を興そうという流れになりました。当初はインドネシアなどを候補にしていましたが、多くの日系企業が進出していてビジネス環境が整っているタイに決めました。タイで洪水被害が多いのを知ったのは、実は後になってからです。──タイでは、2016年にプラユット首相(当時は暫定首相)がFOMMのEVに試乗しました。その出来栄えに感動し、FOMMのような超小型車が公道を走れるよう、法整備を進めてくれたそうですね。実は、ナンバーを取得できるめどが立たないまま、2年ほど経ち、一時は撤退も考えました。しかも、タイでは大きいサイズの車が人気です。当時は韓国や台湾から当社に引き合いがあったので、「今回が最後のタイ出張」と決め、懇意にしていた泰日経済技術振興協会の方に伝えました。そうしたら、その人が人脈を駆使して交渉してくださって、プラユット首相の試乗につながったんです。当時、タイは経済成長の鈍化を防ぐため、「タイランド4.0」(新産業を育成する経済政策)を打ち出そうとしていて、その柱の一つがEVでした。タイミングもよかったと思っています。──2019年3月にタイで量産開始しました。同月に開催されたバンコク国際モーターショー2019では1700台もの新規予約があったそうですね。目標は年間1万台の生産販売なので、まだまだ道半ばです。(年産5000台作れる)工場の稼働率も50%に達していません。現地の企業から調達している部品の一部に、品質の安定性に問題があるので、それを改善している最中です。また、「水に浮かぶ」ということだけで買うお客さんは少ないので、コンパクトで乗りやすい点をもっと打ち出していこうと思っています。もちろん、コストも下げていく必要があります。4月には上海汽車集団(中国の大手国営系自動車メーカー)ともEV開発で提携しました。中国の安価な部品を調達できないか検討しているところです。ダイソン撤退、家電感覚でEVは成らず──EVは構造がシンプルで、参入の垣根が低いと言われてきました。ですが、実際に量産にこぎつけるのが難しいようです。ダイソンも先日、参入を断念しました。その理由はどこにあるのでしょうか。

当社も6年間で試作を5、6回繰り返して、ようやくここまで来ました。EVであろうとガソリン車であろうと自動車の「走る」「曲がる」「止まる」はノウハウの塊です。例えば、車が曲がっている最中、ハンドルを切る量は一定であったとしても、車体のバランスや、タイヤにかかる加重が変化します。こうしたことを考慮してサスペンションなどを設計しなければならない。さらには商品化には衝突試験も必要です。衝突試験も経験の蓄積が必要です。でないとお金ばかりかかってします。私は自動車メーカーで設計していたから、走る・曲がる・止まるは得意です。車体への浸水を抑えるのに苦労はしましたが。家電のような感覚では決してEVは作れません。

──今回の東京モーターショーでも、EVの出展が多数ありました。ただ、大半はコンセプトカーや試作車で、FOMMの展示ブースを訪れた人の中にも、FOMM ONEを試作車と勘違いした人もいたそうですね。

東京モーターショーではタイで製造販売している実車を展示。周辺で展示しているがEVコンセプトカーばかりだったこともあり、訪れた人に「量産車でも、この試作車と同じデザインにできるのか?」と聞かれたこともあったという。(写真:平岡乾)試作と量産は別物です。試作は「一品もの」なので、1ついいものができればいい。量産は品質のばらつきを抑え、悪いものを出さないようにしなければなりません。これが思う以上に大変です。しかも、EVはガソリン車よりも部品点数が少ないとはいえ、たくさんの部品が相互に影響し合います。全体でバランスを取らないと、部品単体では問題なくても、完成車にすると思わぬ不具合が発生することもあります。自社だけでなく、他社から調達する部品の品質も重要です。当社もタイの工場で量産に苦労しています。詳しくは話せませんが、タイでは日本ではありえないような品質の問題が起こります。対策としては、まず当社の工場で働くタイ人社員に、「自分が乗る車だと思って作るように」と、意識改革を働きかけています。そのうえで当社と部品の調達先企業と、タイ人同士で品質の重要性を共有しないと解決できないと考えています。──中国では、バッテリーの不具合を中心としたEVの火災事故が相次いでいます。FOMM ONEでは、搭載しているバッテリーの容量や出力を限界まで引き出すのではなく、余裕を持たせて利用することで、発熱や発火のリスクを抑えています。

その分、回生ブレーキ(減速時にモーターを発電機として利用し、バッテリー充電する手法)の効率を高め、航続距離を160kmまで高められました。回生ブレーキの改良がなければ、航続距離は130km程度だったでしょう。産業ない地域に技術届けたい──今後の展望は。EVの使い勝手が悪いとされる要因である、バッテリーの充電時間の長さを解消するため、交換式バッテリーを採用しています。2018年3月には富士通と連携し、IoT技術を使って、スマートフォンでバッテリーの残量を遠隔でも確認できる仕組みを開発しています。バッテリー交換できるステーションの場所がどこにあるかが分かり、予約もできるサービスとしてタイで構築中です。我々はEVを生産・販売していますが、最終的に目指すところは「マイクロファブ」と名付けたEVの生産技術のパッケージを外販することです。1万台単位で、ボディ部品やモーター、バッテリーを組み立てるラインの設計やノウハウを盛り込んだパッケージ技術です。自動車産業がない地域でも、部品を調達すればEVを作れるようにするのが目的です。オマーンのような中東やアフリカの国から関心を持ってもらっています。そのためには実績が必要なので、早期にタイの工場で量産を軌道に乗せるのが当面の目標です。

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