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「レンタルなんもしない人」が1回1万円の有料化 本人が語る“理由とお客の反応”

 9月に放送された『ザ・ノンフィクション』(フジ系)で話題を集めた「レンタルなんもしない人」が、先月突然「有料にします」と宣言した。その裏には、彼の家庭や家事育児に対する考え方に批判が集中したことがある。「なんもしない」サービスは有料化でどう変わったのか。有料化から約1ヵ月経った今、ご本人の意識と周囲の反応について、合わせて聞いてみた。

 ***

〈『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。ごく簡単なうけこたえ以外なんもできかねます〉

 これは、2018年6月3日、森本祥司さん(36)がツイッターに投稿した“開業の挨拶”だ。一言でいえば、自分自身を人材派遣するサービス。ただし、「なにもしない」ことが前提となっている。

 依頼内容は多岐に渡る。「授業に遅れないように待ち合わせしてほしい」「片付けするところを見守ってほしい」などの他愛ない依頼から「離婚届を出しに行くのについてきてほしい」といった人生の節目に関わる依頼まで、彼が“受け身”だからこそ、依頼の幅はとても広い。森本さん本人が語る。

「こちらが『なんもしない』ので周りの人たちが考えてくれて、依頼者の意図で動くので面白い展開になりやすいところがあります。サービスを提供すると言いながら受け手側として楽しめる、目の前に信じられない光景が広がることがあるのが、この仕事の醍醐味かもしれません」

 もともとは理数系の大学院を卒業後、教育系出版社に就職。3年後に退職しフリーのライターとして活動していた森本さんだが、飽き性で同じことを繰り返すのが難しく、他者とのチームワークも苦手。もはや“何もしない”のが向いているなと感じていたが本当に何もしないでいると世間の目は冷ややかで、頑張って“何かする”と「余計なことをして」とお叱りを受けることもある。ストレスなく生きていくにはどうしたらいいかを模索していたところ、このサービスを思いついた。

「プロ奢ラレヤーという先駆者の方がいるんですけど、その方の活動を面白いなぁとみていて、自分もツイッターを使ってこういう活動をしたい。でも彼と同じことはできないし……という心理状態の中、常々抱いていた“何もしたくない”という欲が浮かび上がってきて、そのまま活動にしようと思い立ちました。着想時は興奮して居ても立っても居られなくなって、その翌日には活動告知をしました」

 サービス開始から1年と数か月。先のツイートにもあるように、森本さんに直接支払う報酬こそないものの、「一緒に飲食店に行ってほしい」といった依頼の際には、飲食代金は森本さんの分まで依頼者が払うことになる。使い方によっては必ずしも安いサービスではないものの、当初は300人ほどだったフォロワーは現在24万人を超え、レンタルの依頼は1日数十件舞い込むように。メディアへの露出も増え、活動内容の書籍化も3冊になった。

 ところが、『ザ・ノンフィクション』に出演したことをきっかけに、「アンチ」が現れた。“若い独身男性”という印象が強かった森本さんに妻や幼い子どもがいることがわかり、夫や父としての責任を問う声が噴出したのだ。

「奥さんや子どもに感情移入したバッシングが多かったですね。放送当時、もっと自由に活動したいと思って別居していたので、『育児放棄』『奥さんが可哀相』『追い出されて当然』『すぐ離婚しろ』『こんなのが親じゃなくてよかった』『将来子どもがいじめられたらお前のせいだ』などの批判が集中しました。リプ(返信)で100件ぐらい、エゴサ(自分に関連する話題を検索すること)して見つけたものは数えきれないぐらいあります」

 ツイッターや匿名掲示板、ヤフコメなどで「こいつはクズだ」「関わっちゃいけない」「最初からヤバイやつだと思っていたんだよ」など、多くの人が自分を批判しているのを見つけたという。

「放送では『嫌なことをどれだけ回避して生きていけるかを試みたい。家事や育児、それに縛られるのが嫌だから別居しました』みたいなことを言いました。最近の風潮に絡めて、『男性も女性もどちらも家事育児に参加すべきだという風潮が強まりすぎている。クリエイティブな仕事をしている人、例えばスティーブ・ジョブズが家事育児に縛られてiPhoneを生み出せなかったら残念じゃないですか』と話したら、『おまえはスティーブ・ジョブズじゃねぇだろ』『スティーブ・ジョブズと自分を同一視するな』と。こういうアンチのコメントがむちゃくちゃバズってましたね」

 バッシングは多かったが、実際の夫婦仲は良い方だという。森本さんの妻もツイッターをやっており、「女性の家に行っているのを見るのが嫌」などとつぶやくこともあるが、基本はお互い自由に好きなことをやるスタンスで、活動についてもおおむね面白いと思ってくれているのだという。

「仲はめちゃくちゃいいですよ。最近は別居していないですし。依頼が多くてほとんど家にいないので、世間からしたら家事育児を奥さんに押し付けているクズ旦那かもしれませんけど。今は家事代行なども充実してるし、そういったサービスを利用しようと思えばできるくらいのお金は入れています」

 活動が“無償”だったことから「ヒモ旦那」などの批判を受けることも多かったが、実際に家計の大半を担っているのは森本さんだという。

「貯金を切り崩していましたが、生活に困ったことはありません。今年の2~3月頃、一度貯金が尽きかけたんですけど、その時は本の印税で何とかなりましたし、最終的には社会制度などに頼るという方法もあります。お金、家族、子ども……そういった制約にとらわれず、自由に生きることが理想ですね。奥さんだって、僕のことが嫌になったら、別の人を見つけることもできるんですよ」

 世間から叩かれるほど家庭で“何もしていない”わけではなかった森本さん。実は“レンタルさん”になる前に、仮想通貨の売買でそれなりの資金を得ていたという。

「投資でお金を増やすことを覚えると、お金を失うことに対する恐怖心は減りますね。労働をしなくても、アイディアや情報、先行投資など、頭を使えばお金を増やす方法はあると思えるようになりました」

 貯金があったことも後押しし、「お金を稼ぐよりもお金を使って何か面白いことやりたい」と思ってはじめた「レンタルなんもしない人」というサービス。交通費と飲食費以外の報酬がないからこそ、依頼者は多くの見返りを求めず、森本さん自身も“何もしないこと”に負い目を感じることなく、全力で「なんもしないサービス」を提供することができていた。

 ところが、今年の9月16日。森本さんは突然、このようなツイートをした。

〈生活費や養育費をもっと家庭に入れろという声が多いので(もちろん今もある分は入れてますが)、利用料とることにします。すでに引き受けた依頼については大丈夫です。これから成立した依頼については1件につき1万円でお受けします。のちほどプロフィール修正し詳細追記します〉

「なんもしない人」のレンタルが有料化。依頼の数は……? 

「ヒモだ、家族が可哀相だ、とあまりにも言われるものだから衝動的に決めました。1万円はパッと頭に浮かんだ金額ですけど、シンプルでちょうどよかったと思っています」

 この日から、「レンタルなんもしない人」は有料になった。1件につき1万円。これは大きな変化だ。1万円あれば、飲食店で豪華な食事もできるし、映画や舞台を見ることもできる。本やゲームソフトも十分買えるし、家事代行サービスを雇うことも、マッサージなどを受けることもできる。「なんもしないただ1人の存在」が、これらのモノやサービスに勝る価値を持たなければならなくなった。依頼の数にも影響があったのではないだろうか。

「数分で済むような“ちょっとした依頼”は減りました。学生さんからの依頼も減ったと思います。掃除を見守る依頼なんかは、1万円あれば業者に頼めますから。辛い経験をメールで送ったら『辛かったね』と返して欲しい……といった、ツイッターのダイレクトメールだけで済むような依頼もあんま来なくなりました。でも、依頼はコンスタントにあります。むしろ、すべての依頼に目を通して内容を検討できるぐらいの、ちょうどいい数に落ち着いたと思います。もともと依頼の数が増えすぎて何らかの線引きを設けたいと思っていたところだったので、(批判に対する)怒りがいいきっかけになったと思います。『なんもしないこと』の価値を検証すると言いながらお金を設定していない状況では『タダだから依頼が来るんじゃないか』と言われることもあって、じゃあ、料金をとってみたらどうなるのかというのも興味があったので」

 有料化してから約1ヵ月。有料で受けた依頼の数は約60件。無料の時に引き受けた依頼と並行して、1日3~4件の依頼を毎日途切れることなくこなしている。

「僕の方の心構えも変わりました。活動を始めた頃の、依頼自体がうれしかった頃に戻った感じです。最近は依頼が多すぎて、“おっさんレンタル”(※編集注:1時間1000円でおっさんをレンタルできる他社サービス)との違いを考えて、“なんもしない人”が必要そうなものを中心に引き受けるようになっていたんですが、依頼の選別がしんどくなっていたところもあります。今は何でも前向きに引き受けられますね。無料だからこその気楽さは失われましたが、自分の内面の変化が新鮮で面白いので、それほどストレスは感じていません」

 懸念していた「お金を払うことによって芽生えるお客様意識」のようなものも、今のところは感じていないという。

「依頼者の態度や接し方にこれまでとの違いは感じていません。逆にお金を払うからこそ頼みやすくなったと言ってくれる人もいます。無料だと『面白い依頼じゃないと申し訳ない』と思う人もいたみたいなんですが、1万円払うから気を遣わなくていい、面白い依頼じゃなくても遠慮なく依頼できる、という人も少なくないです」

 有料化したのだから当然といえば当然だが、「ヒモ」「ちゃんと働け」という内容の批判も森本さんの元には届かなくなった。

「たまにわけわからない人が『金とりだしたのか、乞食』『何もしたくないくせに金はとるんだな。クズからスーパークズになったな』とか言ってくるんですけど、家計についてとやかく言われることはなくなりました。逆に『安心した』『ちゃんと生きていけるようになったんですね』と好意的なメッセージをくれる方もいます」

 有料化した後も順調に続いている「レンタルなんもしない人」のサービス。今後の展開として、何もしない人を派遣するような事業拡大なども考えているのだろうか。

「ないですね。レンタルするのは自分のみです。飽きたら別の形になるかもしれませんが……いつまで続けるか、どんな形に変わっていくのか、はっきりと決めるのではなく、その時の気持ちに任せて動いていきたいですね」

 なんもしないひとは、良くも悪くもなんも考えていないのだ。

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