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【挑戦】ザッカーバーグやベゾスが、幼児教育に投資する理由

2019/11/1

テック界の大物が続々参入2015年、マーク・ザッカーバーグとプリシラ・チャン夫妻に第一子が生まれたとき、夫妻はフェイスブック株450億ドル分を「世界の悪と闘うために」寄付し、わが子の誕生を祝った。夫妻が立ち上げた慈善団体「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(以下CZI)」が掲げるプロジェクトのひとつが「ザ・プライマリー・スクール」だ。低所得世帯の児童に対して、新生児の段階から教育、福祉、コミュニティによる支援を提供する非営利機関である。2018年の秋には、ジェフ・ベゾスと妻(当時)のマッケンジーが、慈善基金「デイワン・ファンド(Day One Fund)」の立ち上げに20億ドルを投じると発表。同基金は、モンテッソーリ教育に基づく幼稚園チェーンの展開を計画している。

photo:Anne Barson/GettyImages2019年1月、イーベイの創設者として知られるピエール・オミダイアが立ち上げた「オミダイア・ネットワーク」は幼児教育・保育に関する調査レポートを発表。2世代にわたる米国内での取り組みを浮き彫りにしてみせた。このように、バフェット夫妻をはじめとする往年の富豪慈善家に加えて、IT社長からの資金が新たに幼児教育の世界に流れ込んだ。新規参入組は、幼児教育・保育に投資することの効果をよく心得ている。さらに、共働き世帯の増加や多様性の浸透など、変わりゆく社会構造にテクノロジーで対処する必要性を痛感してもいる。もちろん、彼らが求めるのはささやかな成果などではなく、壮大な結果だ。「現状を少しばかりよくするというレベルではなく、世界を変えることを目指して慈善活動を行う場合、関わるべき分野の筆頭に挙げられるのが教育と幼児保育です。これらの分野では、既存の慣習よりも、むしろ慣習の破壊が強く求められているからです」そう話すのは、ハーバード大学付属「子供発達センター」の創設者であるジャック・ションコフ教授。同センターは、CZIやオミダイアから資金援助を受けている。

photo:reuters/aflo「アナログ要素」も必要IT界の大物たちから注目されることが、幼児教育にとってあまたのメリットを生むことは言うまでもない。彼らは教育の現場に巨額の資金をもたらし、待ち望まれていたエンジニアリングの専門家を連れてきた。そして、いまだに1970年代の研究内容に頼っているような旧態依然とした業界へ、何十億人もの注目を引き付ける役割を果たしている。教育学者や科学者なら、プロジェクトを進めるために政府の支援を仰ごうとするだろうが、IT業界で富を築いた人々は、シリコンバレー特有のリバタリアン気質により、税金を使った取り組みには関心がない。彼らは、家庭や学校の現場で、あるいはスマホなどのデバイスを通じて、個々の家族を直接ターゲットにしたプロジェクトを推進しようとするだろう。問題は、IT業界ならではの大胆で強気な考え方が、往々にして謙虚さを欠くことだ。子育てほどアナログかつ人間的なやりとりが求められるジャンルはそうない。しかしIT業界は、こうしたアプローチをあまり得意としていない。幼児教育の投資効果はバツグン幼児教育が多くの投資家を引き付けているのは、ハイリターン事業だからだ。ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンは、5歳未満の児童に対して高度な総合教育を実施すれば、投資額に対して年利13%のリターンが得られると話す。教育を受けた子どもは、健康、品行、収入、IQ、学歴といった項目で好成績を上げることができる。加えて、保育制度のおかげで母親が仕事に復帰することが可能になれば、世帯の収入も増える。ハーバード大学の経済学者らによる最近の研究では、医療保険と医療扶助の適用拡大、フードスタンプ(低所得者向けに行われている食料費補助制度)の導入など、過去50年間にアメリカで実施された133の政策を検証し、以下の結論を導き出した。低所得世帯の子どもの健康と教育に直接投資したときのリターンは極めて高く、1ドルの投資に対して1ドル47セントのリターンがある、と。0~5歳が「勝負どころ」健康問題、教育問題、雇用問題といった、より大きな社会課題を入口に、子育て支援にたどり着いた投資家たちもいる。ウォーレン・バフェットの娘であるスージー・バフェットは、2000年ごろにオマハの公立学校に出資しようと考え、とりわけ貧困家庭の子どもに対して最大の効果を上げるにはどの分野を支援すればよいか、学校運営の責任者に問い合わせた。回答は「0歳から5歳までの子供たちに支援をお願いしたい」というものだったと、アーリー・チャイルドフッド基金のジェシー・ラムッセン会長は振り返る。そうすれば、貧困家庭の子どもたちも、裕福な家庭の子どもも、みな同等の条件で幼稚園生活のスタートを切ることができるからだ。ザッカーバーグのCZIでも学力格差の解消に取り組んでおり、そのためのアプローチとして教育の個性化とテクノロジーの導入に力を入れている。学力格差の問題と向き合えば、誰でもすぐに、子どもたちが小学校に入るずっと前から格差が始まっていることに気付くだろう。月齢9カ月という早い段階で格差が現れるという研究結果もある。

photo:Mark Makela/GettyImages親のストレスは子どもに影響する学力格差の大部分は、家庭環境に端を発している。「読み聞かせ」を例に取ってみよう。子どもに読み聞かせを行うことの重要性は広く知られているにもかかわらず、実践している家庭は少数派だ。調査によると、毎日のように読み聞かせを受けている乳幼児は、アメリカ全体では38%にとどまり、各州に目を向けると26%から59%まで結果にばらつきがあった。また、子どものために毎日歌を歌ったり、物語を読んだりしている親も、約半数にとどまっている。ただでさえ困難な子育てという作業が、貧困家庭にあってはさらに困難になる。明日食べるものにも事欠き、家賃滞納で強制退去させられる不安におびえながら、子どもに寄り添って読み聞かせを行うのは至難の業だ。親がストレスにさらされていると、幼児にも影響が及ぶ。「ストレスは、良き親として行動するために欠かせない脳の機能を阻害します」と話すのは、ミネソタ大学発達心理学研究所の所長を務める、児童心理学者のミーガン・ガンナー。「彼らは悪い親ではありません。ただ、良き親が、劣悪な環境の中で子育てに奮闘しているだけなのです」

photo:Liderina/iStock「親になる」体験がきっかけにIT社長が幼児教育に注目しているのは、大きな富を手にした彼らが、自分の関心のあるジャンルに手当たり次第にカネを落としているという、シンプルな背景によるものかもしれない。金持ちになったのと同じタイミングで親になったという人もいるだろう。初めて人の親になるという体験は、億万長者をも不安にさせる。「初めて親になるときは、誰しも謙虚な心持ちになるものです。そのような経験は、人生のあらゆる局面を自分の思い通りに動かしてきた人々に大きな衝撃を与えるのです」と、ハーバード大学のションコフ教授は言う。シャノン・ハントスコットは、2014年に夫のケビン・スコットと共に「スコット財団」を創設した。ケビンはマイクロソフト社のCTOを務めており、夫妻の子どもが通うプレスクールに関わって以来、乳幼児の発達支援に尽力している。「うちの子どもたちは素晴らしい教育環境に恵まれていますが、それはわが家の経済状況に余裕があるからこそです」とシャノンは言う。彼女は、幼児教育に対する地元のニーズがいかに切迫しているかを知って、衝撃を受けたという。「このあたりで幼児教育を受けようと思うと、質は非常に高いけれどすごくお金もかかる施設以外、選択肢はないのです」現在、シャノンはカリフォルニアほか22の州とワシントンDCで展開する低所得世帯向けプレスクールのプログラム「エデュケア(Educare)」の理事長を務めている。どの子どもにも公平な機会をアメリカの家族のあり方は急速に変化している。より多様になり、テクノロジーにも明るくなり、より「仕事中心」になった。いまや、5歳以下の子どもを抱える家庭の3分の2が共働き世帯だ(1940年当時は10分の1にも満たなかった)。とはいえ、子どもが学習を始めるのは学校に入ってからでよいという「常識」が、科学によって一蹴された今となっても、科学はまだ、幼児教育に斬り込むまでには至っていない。「新たに親になった人たちは、今ようやく、幼少期の教育を検討しはじめるようになりました」と、オミダイア・ネットワークの教育部門の投資パートナーであるイザベル・ハウは言う。「私たちは、まさにそこに勝機を見出しているのです」2018年末、プリシラ・チャンはQUARTZの取材に対して、初めての子どもの誕生が、いかに彼女と夫のザッカーバーグを「行動」へと駆り立てたかを語った。「初めて子どもを持った親にはおなじみのパニックが、私たちを襲いました。4カ月後、3カ月後といった具合に、未来がどんどん近くに迫ってくるのです」とチャンは言う。「そうすると、子どものために素晴らしい世界を実現したいという思いに駆られるのです」ザッカーバーグはCZIの活動について語るとき、難民の子供として生まれた妻のバックグラウンドに言及する。「チャンスを与えられた人間が、どれほどのことを成し遂げられるか目の当たりにしたからには、どの子どもにも公平な機会が与えられる世の中にしたい」。カネさえ出せばいいわけではない今をときめくIT社長たちは、幼児教育に対して慎重な投資を行っていくのか、あるいはさっさと現行の制度を壊しにかかるのか。以前、ザッカーバーグはニューアークの公立学校に1億ドルを寄付し、衰退に向かう地域を救うべく教育改革を推進しようとしたが、その姿勢は「傲慢だ」とたたかれることになった。ビジネスの原則と、「結果が全て」というメンタリティを、複雑な社会システムと貧困の文脈に持ち込もうとすれば、やりすぎだと見なされることもある。結果として、幼児教育を発展させようという大手IT企業の取り組みは、しばしば皮肉をもって迎えられることになった。ベゾスが「デイワン・ファンド」を発表したときも、自分の好きなジャンルに少しばかりカネを落として満足するのではなく、もっとたっぷり税金を払って、従業員の給料も上げるべきだという批判が上がった。テクノロジーの弱点とはソーシャルメディアやワクワクするようなビデオゲームなど、テクノロジー業界が作り出してきたブームは、より多くのユーザーと「いいね」を獲得し、ユーザー同士を結び付けることに腐心するあまり、深いところにある人間のニーズを見落としているように見受けられる。テクノロジー業界は、社会に巣くう様々な問題を自らが解決するものだと信じてきたようだが、結果としては、ユーザーの集中力を低下させ、孤独感を刺激し、不安や気持ちの落ち込みを加速させることになった。また、子どもに関することは何であれ厳しく管理されるべきだが、テクノロジー業界は規制と名のつくあらゆるものを軽蔑している。孤独で不安な人がテクノロジーにハマるのか、テクノロジーが人を孤独で不安にさせるのかといった点については、研究者の意見は分かれている。だが、こと幼少期の教育に関しては、結論はひとつと言っていい。つまり、教育には人間の関与が必要不可欠であり、決定的に重要だということだ。生まれて最初の1000日間のうちに、思いやり深い、愛情あふれるケアを受けられるかどうかで、脳の発育度が決まると多くの科学者が考えている。子供たちがいずれ必要とする、人間関係のいざこざに対処する能力や、算数の問題を解く能力などの土台は、この時期に築かれる。今のところ、この点について実の両親よりうまくやれると証明されているアプリは存在しない。

photo:Mark Makela/GettyImagesコア・ファンディングという潮流歓迎すべきは、これらの出資者の多くが、非拘束型の資金援助を行っていることだ。つまり、資金は特定のプログラムにひも付けられているわけではなく、画期的なアイデアであれば何であれ対象となる。オミダイア・ネットワークのイザベル・ハウによると、オミダイアで行っている資金援助の8割は、こうしたコア・ファンディング(プログラムではなく機関に対する援助)の形を取っている。ハーバード大学の子供発達センターに資金援助を行っているバフェット財団のアーリー・チャイルドフッド基金も、援助は小児医療の改革を目的とした画期的な研究全般に対して行われているものであり、具体的な使い道は同センターを信頼して任せているという。もっとも、これが世間のスタンダードというわけではない。慈善活動への資金援助は、依然として8割が特定のプログラムに対して行われている。大胆な改革の主導に期待ここまで見てきた通り、幼児教育・保育に対しては大きな関心が寄せられているにもかかわらず、資金援助の件数はまだまだ少ない。91の教育慈善団体を調査対象とした「教育慈善活動の動向調査」によると、教育産業に対する出資総額のうち、幼児教育に分配された資金の割合は3%にとどまっている。これは、義務教育や教員育成といった分野よりも少ない。もっとも、58%の団体は、今後2年間のうちに幼児教育への出資比率を増やす予定だと回答しており、全分野の中でも幼児教育が最も高い関心を集めていることを示唆している。「幼児教育は予算不足に悩んでいます。とはいえ、必要とされる金額はさほど多くはありません」とシャノン・ハントスコットは言う。望ましいシナリオは、IT社長たちから提供された資金が、幼児教育の良い側面を伸ばす一方で、悪い側面を切り離す役割を果たすことだ。「私たちは、彼らの財力を必要としています」と、幼児教育を手掛ける起業家は語る。「それと同じくらい、彼らの大胆さを必要としているのです」

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